第45話:バブルの魔術師
朝は、いつだって一枚の新聞や雑誌から始まる。
『異界経モーニング』、『異界経ウーマン』、『異世界タイムズ』、『異世界プレジデント』——。
ありとあらゆるビジネス誌、経済誌、タブロイド紙の表紙を独占しているのは、ピンクのヘルメットを小粋に被り、バインダーを小脇に抱えた一人の女性の笑顔だった。
——その名は、ソメイ・ラ・サクラ。
プライベート・ダンジョン(PD)ブームを単独で巻き起こし、異世界全域に空前のモンスター不足と賃金高騰という未曾有の特需をもたらした張本人!
かと思いきや、供給過多で暴落しかけたマーケットを、独自の『全自動・超絶理不尽難易度アップグレード』によって一晩で『恐怖という名の高級ブランド』へと昇華させ、バブル崩壊を完璧に食い止めた伝説の救世主!
王立証券取引所の前では、株価ボードの歴史的V字回復を見つめる投資家たちが、涙を流して「ソメイ様万歳!」と歓喜の歌を合唱していた。
彼女はただの零細ゼネコンの社長ではない。
この異世界そのものの景気、需要、そして恐怖と欲望を、その「施工管理スキル」と狂気の現場魂で完全にコントロールする——『経済の魔術師』その人であった。
【異世界の名士たちが讃える「プロフェッショナル」】
仮設社屋の壁には、各界の重鎮やライバルたちから届いた絶賛と敬意の祝電がズラリと貼り出されていた。
◆ 王立金融協会会長・グランデル
「正気の沙汰ではないと思いましたが、彼女の言う通りでした。『誰もクリアできないPD』を所有することが王都最高のステータスとなった今、金融市場は空前の安定期を迎えています。サクラ社長はまさに異世界経済の守護神です!」
◆ 特許庁長官・ガンテツ
「ワシの目に狂いはなかった! あの不条理なメカモンスターの特許と爆破演出こそが、時代の最先端じゃ! サクラ社長の現場魂には、職人として心の底から敬服しておる!」
◆ 業界大手『ドラゴン組』・剛腕ガルド
「ぐぬぬ……認めざるを得ん! 弱小企業と舐めていたサクラ迷宮建設に、我々大手ゼネコンは完全に敗北した。あのサクラという女社長の度胸と現場の牽引力……本物の『プロフェッショナル』だ!」
「サクラ社長……! 異世界中の大物たちが、みんなあなたにひれ伏していますぞ!!」
営業本部長のマルコスが、祝電を抱えて歓喜の涙を流す。
窓の外には、世界中から殺到した発注書とライセンス料の金貨が、足の踏み場もないほど山のように積み上げられていた。
「サクラさん、株価も過去最高値を更新しました! これなら一億ゴールドの負債どころか、王国を丸ごと買い取れるほどの利益が出ています!」
勇者佐藤が、電卓を叩きながら目を回している。
「ふっ……当然よ!」
サクラ社長はドンッとデスクに足を投げ出し、ふんぞりかえって不敵に笑った。
「よく考えなさい? プライベート・ダンジョンブームを仕掛けて世間を熱狂させ、巨大なバブルを起こしたのも私! そして、増えすぎて価値が下がりかけたバブルを『超絶難易度改修』で食い止めて、さらに大儲けしたのも私!!」
サクラ社長はピンクのヘルメットを指でツンと跳ね上げた。
「つまり……自分で起こしたバブルを、自分で鎮火して一人勝ちしたってわけよーーーッ!!」
「究極のマッチポンプじゃないですかーーーーーッ!」
佐藤とマルコスが揃って大ツッコミ!
そう、これこそが異世界経済史に刻まれる「ソメイ・ラ・サクラ大作戦」の恐るべき全貌であった!
サクラ社長は不敵な笑みを浮かべたまま立ち上がり、腕を組んで力強く言い放った。
「世間が私を『経済の救世主』と呼ぶなら、好きに呼ばせておきなさい! 我が社はこれからもリスクを恐れず爆走するわよ! 全員、新たな社是を唱和しなさいッ!」
社員たちが胸を張り、声を揃えて大合唱する!
『一億ゴールドの負債なんかドンと来い! 借金できる優良企業こそが世界を回す! ご安全に儲け続けろーーーッ!!』
「ご安全にーーーーーッ!!」
……一億ゴールドの借金を背負いながらも、世界そのものを手玉に取り、今日も今日とてホワイト経営と爆発工事に邁進するサクラ。
彼女の破天荒な現場魂と伝説は、この広大な異世界で、どこまでもどこまでも続いていくのだった——!
(『いせダン』第45話・了)




