第43話 モンスターバブルの到来
「いいこと? これからは国家事業やダンジョンアタックの時代じゃないわ。時代は【プライベート・ダンジョン(PD)】よ!!」
仮設社屋のホワイトボードに、サクラ社長がマーカーでデカデカと『PD=大富豪のステータス』と書き殴った。
大商人カフへのPD施工が大成功を収めたことで、王都の貴族や大富豪たちの間で「自分専用のプライベート・ダンジョンを持つこと」が大ブームとなって爆発!
「うちの庭にも露天風呂付きダンジョンを!」「我が一族の威信をかけた10階層のVIPダンジョンを!」と、サクラ迷宮建設へ発注の嵐が押し寄せていたのだ!
「サクラ社長! 王立貴族協会から5件、闇市の大幹部から3件のPD建設が新規で入りました! 前払い金だけで山のような金貨ですぞ!!」
営業本部長の大魔王マルコスが、札束と金貨の入った袋を抱えて大はしゃぎする。
まさに異世界建設業界に空前の「ダンジョン建設バブル」が到来していた!
だが——この空前のバブルは、異世界に誰も予想しなかった「深刻な問題」をもたらすことになる。
「サクラ社長……大変です!! ダンジョンは建ちましたが、中に入れるモンスターが異世界から一匹もいなくなりました!!」
人事部長のヴァルキリーが、血相を変えてプレハブに飛び込んできた。
「はぁ!? モンスター不足って何よ!? スライムとかオークなんて、その辺の森に腐るほど生息してるでしょ!?」
「それが……建設されたPDの数が多すぎて、異世界中の野生のモンスターが引っ張りだこになってしまったのです! 今やオーク一匹の『ダンジョン派遣日給』が金貨50枚(※大企業の部長の月給並み)まで高騰しています!」
「金貨50枚!?」
さらに、街の若者たちの意識にも異常事態が発生していた。
勇者佐藤が、王都の「なりたい職業ランキング」のチラシを持って青ざめている。
「サクラさん、これ見てください! 王都の子供たちが『将来なりたい職業ランキング』の1位が【ダンジョンのモンスター】になってます!!」
1位:ダンジョンモンスター(高収入・賄い付き)
2位:冒険者ギャルドの黒服
3位:王立騎士(※不人気)
「(世紀末か!)でも背に腹は代えられないわ! 粗悪なモンスターでもいいから集めなさい!!」
サクラ社長の命により、緊急で「PD用モンスター面接」が開催されたのだが……面接室に現れたのは、目を疑うような「粗悪モンスター(偽物)」たちであった!
緑の絵の具を全身に塗りたくった人間のおじさんが入ってくる。
「ゴブリンだコラァ! 日給金貨30枚くれゴブ!」
「ハロウィンか!? 人族が絵の具塗ってコスプレしてるだけじゃないのよ!! 不採用ッ!!」
続いて入ってきたのは、全身を黒い布で包み、ハリボテのツノを頭につけた……魔王マルコス配下の「正真正銘の悪魔」たち。
「ギャオー! 我は恐ろしい『魔界のキマイラ』だぞー!……サクラ社長、これでバイト代出ますか?」
「悪魔がモンスターのフリしてバイトすんなーーーーーッ!! プライドはないの!? 悪魔としてのプライドは!?」
「背に腹は代えられません! 今や悪魔やってるより、PDの3階層で『ウオォン』って唸ってるだけのバイトの方が時給が良いんです!!」
求人倍率はなんと50倍! 現場では、コスプレした人間、バイトの悪魔、高給優遇された本物のオークが入り乱れるカオスな現場と化していた!
ーーだが、サクラは余裕綽々だった。
「……フッ、モンスターが足りない? 賃金が高騰してる?」
カオスと化した現場を見つめ、サクラ社長は不敵に笑い、ピンクのヘルメットを深く被り直した。
「だったら……我が社が『クオリティの高いカラクリ(機械)モンスター』を自社開発・量産して、PDと一緒にセット販売してやればいいのよ」
「ダンジョンとモンスターのサブスク事業ーー!」
サクラ社長は即座にエルザのデスクへ怒涛の勢いで押しかけた!
「エルザちゃん! 大至急メカモンスターを開発しなさい! 一台や二台じゃないわ、次から次へとシリーズ化するのよ!」
「あんたバカなのーっ!? 機械でモンスターを量産するなんて無茶苦茶よ!!」
「無茶じゃないわ! 今街で大流行の特製プレミアム・エルフパフェ全種食べ放題券をあげるわよ!」
「……っ! 勘違いしないでよね! パフェのためじゃないわ! 私の天才的なアイデアを見せつけてあげるだけなんだからっ! 」
ツンツンしながらも、エルザの天才的な製図ペンが火を噴いた!
メカ・スライム太郎: 高圧スチームと伸縮自在の金属触手を備えた基本機! 試運転で暴走してピンクの粘液を爆発散布するも「最高の演出トラップ」として大好評!
メカ・オーク蒸気型: 重労働・警備用の超高出力マシン! 「ウオーッ!」と叫びながら試作品が王都の壁を破壊して爆走!
メカ・ドラゴン: 全自動ブレス&消火泡噴射機構搭載のボスクラス! マルコスを泡まみれの白い塊に変貌させる!
「よし、開発したら即・権利化よ!!」
サクラは完成した図面を抱え、王都の『異世界特許庁』へ突撃!
頑固一徹なドワーフの特許庁長官ガンテツに、暴走実演プレゼンを叩きつけた。
「長官! これが我が社の『全自動・不条理暴走安全設計(特許出願中)』です!!」
「ただ暴走してるだけじゃろうがーーーッ!! だが……この圧倒的な不条理アクション、認めざるを得ん! 授与する!!」
『メカモンスター構造および不条理動作機構』として、異世界特許を独占獲得!
サクラ迷宮建設にはライセンス料とサブスク料金が毎月ザクザクと舞い込み、王立証券取引所からは「株式市場へ上場(IPO)間近の超・成長企業!」と持て囃され、サクラ社長の鼻腔は限界まで広がりきっていた!
(『いせダン』第43話・了)




