第42話:サクラ迷宮建設、250年の真実
「ねぇ、マルコス。あんた……いつからうちの会社で働いてるの?」
冷凍マグロが降ってきた雪原から避難し、暖炉の火を囲みながら、サクラ社長は冷えたお茶を啜りつつ何気なく尋ねた。
営業本部長の魔王マルコスは、高級な紅茶を優雅に飲みながら、胸を張って答えた。
「ふっふっふ……何を今更。私は、『サクラ迷宮建設』の生き字引! 歴代の社長たちを支え続けて……およそ250年になりますぞ!」
「250年!!」
サクラ社長と勇者佐藤は思わず叫んだ!
「ちょっと待ちなさいよ!? 250年前って言ったら、我が社が王都で『伝説の優良老舗ゼネコン』って呼ばれてた黄金期じゃないの!?」
そう、本来のサクラ迷宮建設は、高品質な施工と厚い信頼で王都のインフラを支えていた超・優良企業だったのだ。それがなぜ、社員数人の貧乏会社に落魄れ、一億ゴールドもの巨額負債を抱えることになったのか——。
マルコスは遠い目をしながら、誇らしげに語り始めた。
「いやぁ、思い返せば250年前……私が営業として入社した直後から、なぜか会社の資材倉庫が謎の発火で全焼しまして! さらに担当した大型案件で架空請求と経理の使い込みが発覚し、建設した地下街は手抜き工事でリコール! 歴代の社長たちが青ざめて倒れていきました! ぶははは!」
「……笑い事じゃないわよ……ッ!!」
サクラ社長の顔からスーッと血の気が引いていく。
「悪魔」——それは存在するだけで周囲に破滅と災厄をもたらす超・疫病神の種族。
マルコスという「歩く大災害」を社員として雇い続けてしまったことこそが、老舗企業サクラ迷宮建設が没落した最大の元凶だったのだ!
経営者が代わるたびにマルコスが引き起こすポカと災厄によって負債は雪だるま式に膨れ上がり……ついに『一億ゴールド』という天文学的数字に到達!
「……なるほどね。一億ゴールドの借金の原因は、全部あんたのせいだったのね!」
怒りで拳を震わせるサクラ社長の横で、勇者佐藤が、雪まみれの社史と決算書をパラパラとめくりながらうなずいた。
「サクラ社長、見えてきました! 250年前の負債はわずか10万ゴールド……そこからマルコスさんの架空請求で500万、資材紛失で2000万、リコール賠償金で5000万……見事なまでに雪だるま式です! 会社の帳簿自体に怪しい黒幕はいません! ただただマルコスさんの悪運とポカの積立金です!」
「原因がわかれば話は早いわ! この一億ゴールドの負債の『貸主(借金取り)』は誰なのよ!? 50万枚の金貨から一括返済してやるわ!」
サクラと佐藤が、社史の最後のページにある「債権者一覧」を開こうとした——その瞬間!
ボカァァァァァンッ!!!!
「ひゃあぁぁぁぁっ!?」
暖炉の中から突如として「巨大な焼き芋(魔界産)」が爆発しながら飛び出し、社史と帳簿を目掛けてジャストヒット! ページが真っ黒焦げになって弾け飛んだ!
「な、なんで暖炉から焼き芋が爆発して飛んでくるのよーーーーーッ!?!?」
「あ、すみませんサクラ社長。私が仕込んでおいたおやつが爆発しました」
「マルコスーーーッ!! あんたの災厄体質と謎の不運がダブルで襲ってきてるじゃないのよーーーッ!!」
「……ふぅ、ふぅ……」
焼き芋の煤で顔を真っ黒にしたサクラ社長は、ハッと重要な疑問に思い当たった。
「……ねぇ、佐藤くん。ちょっと考えてみて」
「はい? 何でしょうサクラさん」
「マルコスのせいで一億ゴールドまで負債が膨らんだ経緯は分かったわ。……でも、おかしくない? なんで今まで『借金取り』が一度も来ないのよ?」
「あ…………!」
佐藤とマルコスがハッと息を呑む。
一億ゴールドという巨額の借金だ。普通なら、とっくに金融業者や街の取り立て屋が恐ろしいコワモテを引き連れて、社屋を差し押さえに来るはずである。
「世の中、不気味なくらい変なことばかり起きるわね……」と呟くサクラ。
ーーサクラたちは知る由もなかった。
その頃、王都の金融街では——。
「くそっ! 今日こそ『サクラ迷宮建設』から一億ゴールドを回収してやるぞ!!」
息巻いて飛び出した取り立て屋たちが、街角でバナナの皮に滑って全員下水に落っこちたり、突然空から降ってきた巨大タコに絡め取られたりして、「あそこへ向かうと呪われる!!」と涙を流してトラウマになって逃げ出していたという事実を。
魔王恐るべし!
(『いせダン』第42話・了)




