第39話:カウントダウン
「はぁ……現場の職人が圧倒的に足りないわね」
サクラ社長と人事部長のヴァルキリーは、人手を確保するため『冒険者ギルド』……と間違えて、バニー姿のギャルが接客する『冒険者ギャルド』の暖簾をくぐっていた。
店内では、王立魔鏡放送のチャラいディレクター・カルロスが、隣のギルド副長におねだりしていた。
「ギルド副長~! 番組『プロフェッショナルS』で取り上げる苦労してる建設会社ない~? ネタに困っててさ!」
直後、カルロスはサクラとヴァルキリーを見つけると軽薄に声をかけた。
「やぁお姉さんたち~! 超絶ベッピンじゃん! お茶しない?」
その瞬間、サクラとヴァルキリーの目が肉食獣へと変わる。
サクラはカルロスの首元に「極太釘打ち魔導ガン」を突きつけ、超・悪魔的笑顔を浮かべた。
「我が『サクラ迷宮建設』を、その番組で大々的に特集しなさい」
ヴァルキリーもバインダーをドカンと叩きつける。
「タイトルは『プロフェッショナルS 〜地下の流儀〜』。サクラ社長を『ホワイト経営を貫く奇跡の現場監督』として超・感動的に演出するのよ。断ったら、どうなるかわかるわよね!」
「(脅迫ーーー!ナンパしただけなのに脅迫されてるーーー!)つ、つくりますから命だけは助けてぇぇぇッ!!」
こうして、あのポエムのような感動番組は誕生したのだった。
そして、番組が放映された翌朝——。
「サクラ社長! 番組に感動した求職者が殺到し、応募が『1万人』を超えました!!」
営業本部長マルコスが悲鳴を上げると、自社ビルの外には履歴書を抱えた1万人の人間や魔族が大殺到!
正社員8人(マルコス、佐藤、ヴァルキリー、ゴルドン、エルザ、三大悪魔の3人)で1万人の履歴書を爆速検品し、なんとか400人に絞り込んで面接を開始したのだが……。
「現場に必要なのは気合と筋力! このオークだ!」
「ダメよゴルドン! 美意識が死ぬわ! こっちのエルフよ!」
「我が社に必要なのは夜勤に耐えられる悪魔だ!」
面接官8人の求める人材像が1ミリも噛み合わず、面接室は大喧嘩で大荒れ!
しびれを切らしたサクラ社長がドカドカと乱入してきた。
「ちょっとあんたたち!! くだらない面接でいつまで揉めてるのよッ! 採用は一旦ストップ!!
ギルド長からの『緊急ダンジョン建設依頼』があったでしょ! 佐藤くん! 詳細は何なのよ!?」
「ええぇぇぇッ!? 今聞くんですかーーー!?」
勇者佐藤が目を飛び出させると、サクラ社長はバインダーで佐藤の頭をパコンと叩いた。
「早く報告しなさい! あんたギャルドで油売ってただけじゃないでしょ! ちゃんと聞いてきたんでショ!?」
「ひっ……! ギャルドのVIP席で聞き出しましたッ! 依頼は……極北の地に最凶モンスター群を封印する100階層要塞ダンジョンの建設です。古代の預言書によると、封印が破れて『世界終末戦争』が起きるらしくて……完成期限は今週末までです♪」
それを聞いて、魔王マルコスと三大悪魔たちがガタガタと激しく震え上がった!
「ば、バカな……! 終末の邪神群だと……!?」
「今週末に世界が滅びるのか!?」
「社畜として働いてる場合じゃない! 世界が終わるぞーーーーッ!!」
「お前はバカなのか!」
全員から凄まじい一斉ツッコミが炸裂する中、サクラ社長は胸ぐらを掴んで叫んだ!
「今週末で世界は破滅するのよーーー! 我が社だけじゃ絶対に間に合わないわ!!ダンジョン建設業界『全社』を巻き込んで、総力戦で世界を救うわよッ!!」
サクラ社長を筆頭に、怒涛の勢いで『冒険者ギルド』の本部へと乗り込んだ一同!
バァァァァァンッ!!
「ギルド副長ーーーッ!! 出てきなさいッ!! 一企業に任せるような案件じゃないのよッ!! 異世界中の建設業者を総動員しなさいよーーーーーッ!!」
サクラ社長の気迫に押され、ギルド副長は「ひぇっ!?」と後ずさりしながら、困惑しきった顔で首を傾げた。
「え……? あの……サクラ社長……? あなた様は、何を勘違いしていらっしゃるのですか?」
「……えっ?」
ギルド副長は手元の正式な依頼書を開きながら、極めて冷静に言った。
「そりゃあ確かに、古代の預言書には『世界終末の刻』が記されていますよ。ですが、今回の案件は【今週末】ではなく……【二万年後】の終末に備えた、国家防衛ダンジョン建設ですが……?」
「………………は?」
固まるサクラ社長。
ギルド副長は不思議そうに、サクラ社長の隣でヘラヘラしている勇者佐藤を見た。
「あれ? 佐藤さん、昨日『ギャルド』のVIP席で『ふんふん、しゅーまつね〜♪』って聞いてましたよね?」
「……佐藤くん?」
サクラ社長が、ゆっくりと首をギギギと回して佐藤を睨みつける。
勇者佐藤は「あはは……」と頭を掻きながら、爽やかな笑顔で言い放った。
「いやぁ〜! 『冒険者ギャルド』のギャルモンスターちゃんたちと飲んでたら結構酔っちゃって! 『今度の世界終末』を『今週末』って聞き間違えちゃいました〜テヘッ♪」
(沈黙)
次の瞬間——。
ズコーーーーーー!!
サクラ社長、マルコス、ヴァルキリー、ゴルドン、エルザ、三大悪魔、ギルド副長、果ては面接を待っていた400人まで、全員が地響きのような音を立てて豪快にズッコケた!
「佐藤ぉぉぉぉぉッ!! 『二万年後』と『今週末』を間違えてんじゃねえぇぇぇぇッ!!」
「二万年後なら超・ゆとり納期じゃねえかーーーーーッ!!」
「ご安全にーーーーーッ!!(脱兎の如く逃亡する佐藤)」
勇者佐藤!逃げ出す前に契約金5000万ゴールドとサクラ社長に伝えておかないと!
(『いせダン』第39話・了)




