第37話 偽者疑惑の勇者と悪魔の営業術
「汚名返上! プライベート・ダンジョン投資で爆売りして見せますよーーーッ!」
息巻いて社長室を飛び出した勇者佐藤。
彼は勇者としての圧倒的なネームバリューを武器に、街一番の富裕層が集まる「大商人カフの屋敷」へと足を踏み入れ、ドヤ顔で図面を広げた。
「カフさん! これからの時代は資産運用です! 貴族や大商人が個人で所有する『プライベート・ダンジョン』を買いませんか! 冒険者から入場料を取れば不労所得でウハウハですよ!!」
熱弁を振るう佐藤くん。しかし、豪華な革張り椅子に腰掛けた大商人カフは、ポカンと口を開けて佐藤くんを見つめていた。
「……ぷ、プライベート……ダンジョン……? なんだねそれは? ダンジョンというのは魔物が湧き出る恐ろしい穴ぐらのことだろう? なぜ金を払って自分の敷地にそんな物を作らねばならんのだ?」
「ですから! 施工は我が『サクラ迷宮建設』が完璧に行いますから安全です! 時代はオーダーメイド・ダンジョンですよ!」
「いやいや、意味が分からん! 時代が早すぎるというか、発想が狂っておる!」
全くピンとこない大商人! 革新的すぎるビジネスモデルに頭がついていかない!
焦った佐藤くんは、自分の顔をグッと近づけて胸を張った。
「僕を信じてください! ほら、世界を救う勇者佐藤ですよ!? 僕が言うんだから間違いありません!」
すると商人カフは、胡散臭そうに佐藤くんの全身をじろじろと見回し、冷ややかに鼻で笑った。
「……ハッ! お前、さては『勇者佐藤』を騙る偽物だな!?」
「えぇぇぇぇぇッ!?」
「当たり前だろ! 勇者佐藤様と言えば、ダンジョンを『攻略(破壊)』するのがお仕事だ! その勇者様が『ダンジョンを買いませんか〜』なんて売り込みに来るわけがないだろうがッ!!」
「本物ですよ! 訳あって今はサクラ迷宮建設の平社員(営業担当)なんですってばぁぁぁッ!!」
「えい、者ども! この怪しい詐欺師を追い出せッ!!」
(門番たちに叩き出される佐藤)
数時間後——他の富裕層の屋敷にて。
「伯爵様! 個人所有のダンジョンを——」
「勇者様がダンジョン売るわけないだろ偽物め! 警察(騎士団)呼ぶぞッ!」
「公爵様! これからはプライベート・ダンジョンの時代——」
「偽者め! 勇者佐藤の偽物が投資詐欺をはたらいているぞーーーッ!」
行く先々の富裕層から「勇者がダンジョンを売るなんておかしい」「偽物の詐欺師」と決めつけられ、塩を撒かれ、門番に追い払われる佐藤くん!
(くそっ……! 時代が早すぎた……! そして僕が『勇者』であることが完全な裏目に出てる!)
ボロボロになり、豪華なパンフレットを抱えて路地裏に座り込む勇者佐藤。
名誉挽回どころか、「勇者佐藤の偽者投資詐欺師」という新たすぎる謎の汚名(噂)が街中に広がりつつあるのであった。
「勇者がダンジョンを売り歩く」という矛盾のせいで偽者扱いされ、ボロボロになって帰ってきた佐藤くん!
社長室の床に力尽きて倒れ込む佐藤くんを見下ろし、人事部長のヴァルキリーが冷ややかに言い放った。
「……ハァ。やっぱり勇者佐藤は使えないわね」
「ガビーンッ……!! ヴァ、ヴァルキリーさん……! 違うんです! 時代が……僕の熱意に時代が追いついていなかっただけで……ッ!」
必死に言い訳をする佐藤くんだったが、サクラ社長は腕組みをして深いため息をついた。
「そうね……。やっぱり営業は、現場の空気が読めて口のうまいマルコスね」
「えっ……!?」
サクラ社長の言葉に、部屋の隅で「100年岩塩掘り」の恐怖に怯えていた魔王マルコスが、カッと目を輝かせた!
「そうでしょう、そうでしょう社長! 正しいご判断です! 魔王だとか何だとか、そんなことは営業の現場においては実に些事なこと! 営業とは結果がすべてですから!」
怪しい眼を光らせ、一瞬で「優秀な営業マン」の顔つきへと切り替わるマルコス!
「勇者くんのように『正義感』や『有名人パワー』を振りかざすから失敗するのだよ。富裕層が求めているのは夢ではなく『利益』と『優越感』……! 相手の欲望の隙間に滑り込むことこそ、私(魔王)の本領発揮! プライベート・ダンジョン投資案件、私にお任せくださいッ!!」
「いい顔ねマルコス。もしこれで富裕層にバカ売れさせたら、例の『ダブル処分(岩塩掘り&無給トイレ掃除)』は帳消しにしてあげるわ」
「本当ですか社長ーーー!(歓喜)」
命(と労働条件)の危機を脱する千載一遇のチャンスを得た魔王マルコスは、バインダーを小脇に抱えると、プロの営業マンとしてドヤ顔で佐藤くんを見下ろした。
「見ているがいい勇者よ。本物の『営業のプロ』というものを教えてあげるよ。フッ……ご安全に!」
「くそぉぉぉぉぉッ! 本物の魔王のくせに営業マンとして優秀すぎるのが悔しいーーー!」
こうして、勇者佐藤の失態を突く形で、魔王マルコスが「プライベート・ダンジョン事業」のトップ営業として現場へと解き放たれるのであった!
ビシッと仕立て直したスーツに身を包み、高級貴族街へと足を踏み入れる魔王マルコス。後ろには、カバン持ちとして同行させられた勇者佐藤が、複雑な表情でついていく。
最初に訪問したのは、先ほど佐藤くんを「偽物の詐欺師」と追い出した大商人カフの豪華な屋敷だ。
「おい! またあの偽者勇者が……ん? お前は誰だ?」
不機嫌そうに現れたカフに対し、マルコスは完璧なビジネススマイルと極上の洗練されたお辞儀を披露した。
「初めまして、カフ様。『サクラ迷宮建設』で特別営業本部長を務めておりますマルコスと申します。……本日は、『他業者を圧倒し、王立貴族をも見下せる極上のステータス』のご提案に上がりました」
「なに……? 貴族を見下せる……だと?」
カフの目がピクリと動いた。マルコスはすかさず、滑らかな手つきで一冊の豪華な革張りパンフレットを開く。
「ええ。想像してみてください。パーティーの席で『私は王都に邸宅を持っています』と誇る貴族に対し、あなたが『ほう、私は地下にプライベート・ダンジョンを所有しておりますが?』と微笑む姿を……!」
「な、なんだと……ッ!?」
「さらに! 我が社のダンジョンは完全オーダーメイド! 地下1階にはお客様専用の『極上ワインセラー』、地下2階には『VIP専用温泉』、そして最深部には『希少な宝箱(※中身は自社調達)』を配置! 招待したVIP客に宝探しをさせれば、あなたは一躍、社交界の絶対的支配者です!」
(すごすぎる……! 相手のコンプレックスとプライベートの欲を完璧に突いている……!)
後ろで見ていた佐藤くんは、マルコスの悪魔的営業トークに戦慄した。
「し、しかし……モンスターが暴れ出したら危険なのでは……?」
「ご安心ください! 我がサクラ迷宮建設のセキュリティ施工は世界一! さらに今なら……『勇者佐藤(本物)による、竣工記念・初回安全点検アフターサービス』もお付けいたします!」
「僕を勝手に特典にするなーーーーーッ!」
佐藤くんの叫びを無視して、大商人カフの目は完全に輝いていた。
「す素晴らしい……素晴らしいぞマルコス君!! 買う! 買いましょう! 最高のプライベート・ダンジョンを作ってくれ!!」
「毎度あり(ニヤリ)……!」
その日の夕方——サクラ迷宮建設・社長室。
「ただいま戻りました、社長! 大商人カフ様をはじめ、王都の富裕層からプライベート・ダンジョン計10件の超大型受注を獲得してまいりました!」
社長室に提出された大量の手付け金と契約書の山に、サクラとヴァルキリーの目が飛び出た!
「信じられない……あんな『時代が早すぎる』って断られた物件を、たった一日で10件も……!?」
マルコスはフッと鼻で笑った。
「フッ……言ったでしょう佐藤くん。『営業は結果がすべて』だとね。相手の欲望を読み解き、適切な価値を与える……これぞ知性派魔王の営業術だよ」
サクラ社長は契約書をチェックすると、満足そうにニヤリと笑った。
「見事な手腕ねマルコス! 約束通り、例の『ダブル処分(100年岩塩掘り&無給トイレ掃除)』は帳消しにしてあげるわ!」
「おぉぉぉッ! 感謝いたします社長!!」
「さあ! 現場が待ってるわよ! 徹夜で施工計画書を作りましょう。幹部全員招集よ!」
待て待てサクラ、国家規模のダンジョンはどうなった? 勇者佐藤、早くサクラ社長に伝えて名誉挽回しないと!
(『いせダン』第37話・了)




