第33話 営業は辛いよ!
ゴゴゴゴゴゴゴ……ッ!!!!
「誇り高き勇者佐藤よ! 400年の時を超え、今こそ我が真の力……大魔王マルコスの全霊を刮目して見るがいいーーーッ!!」
暗黒の魔力が渦巻き、空が黒雲に覆われる。眼鏡を光らせ、禍々しいオーラを纏ったマルコスが、ついに大魔王としての威厳を爆発させた。
「くっ……なんという威圧感……! これが……これが本物の大魔王の力なのか……ッ!?」
聖剣を構え直し、全身の汗を流しながら身構える勇者佐藤。
両者の殺気が最高潮に達し、まさに世界の命運を賭けた一撃が放たれようとした——その時。
『ピピピッ……ピピピッ……』
マルコスの胸元から、無機質な通信用の魔導インカムの電子音が響き渡った。
「ぬ……? 誰だ、このような歴史的決戦の瞬間に——」
『あ、マルコス? 私よ、人事部長のヴァルキリー』
インカムから聞こえてきたのは、かつて聖騎士団長であり、現在はサクラ迷宮建設の厳格な人事部長へと転職したヴァルキリーの声だった。
「ヴ、ヴァルキリー人事部長……!? 今はそれどころでは——」
『社長命令よ。マルコス、[お前は今すぐ営業を中断して本社へ戻れ]』
「……は?」
マルコスは拍子抜けした声を上げた。纏っていた漆黒の魔力が、パシュンと音を立てて一瞬で霧散する。
『社長から伝言。「新規案件が入ったから、営業担当のマルコスは至急図面と見積書の作成に戻りなさい。遅れたら減給」』
「し、新規案件ぇぇぇぇぇッ!?」
『そういうことだから、じゃあね。ご安全に〜』
プツッ……ツッ……ツッ……
容赦なく切れる通信。
さっきまで世界を滅ぼしそうだった禍々しい暗黒空間はどこへやら、そこには爽やかな秋晴れの空と、気まずそうにポカーンと口を開けて立つ二人の男だけが残された。
「……あ、あの……魔王……マルコスさん?」
「……すまん、勇者佐藤。新規案件が入ったから、本校(本社)へ戻らなきゃいけなくなった」
「ええぇぇぇぇぇッ!? 400年の決着は!? 年貢の納め時はどうなったんですかーーーッ!?」
マルコスはテキパキと暗黒のオーラを消し去ると、放り投げていたバインダーとパンフレットを拾い上げ、眼鏡をクイッと直した。
「ふッ……勇者よ。社長命令には逆らえんのだよ。社会人とはそういうものだ」
「社会人ぶるな! 僕の緊迫した決意を返してぇぇぇぇぇーーーーーッ!!」
あっけなさすぎる社長命令の一言により、400年越しの世界決戦は一瞬で「業務連絡」によって打ち切られたのであった。
完成したばかりの新社屋へ舞い込んできた「新規案件」とは一体どんなハチャメチャな依頼なのか……!
(『いせダン』第33話・完)




