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異世界ダンジョンつくります!  作者: 桜ジョー


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第32話:悪魔と勇者

 マルコスは悩んでいた。


(魔王が勇者を従える?! 400年間逃げ回っていたにもかかわらず、やはり勇者とは戦う運命なのか!)


 勇者佐藤は悩んでいた。


(勇者がダンジョン建設会社の営業などしてよいものか?! 所詮現世は現世。ここは異世界。魔道に落ちた元上司・魔王サクラを討伐すべきではないのか?!)


 悩む勇者に対して、悪魔マルコスは考えを改める。


(灯台下暗し、ではなかろうか。勇者がサクラ社長を魔王と勘違いしているなら、まさに絶対の安全圏!)


 そしてマルコスは冷静を装い、勇者佐藤を部下として扱うことに意を決する。


「さあ佐藤! 営業一筋400年(ウソ)の我が営業ロジックを叩き込んでやる! まずは冒険者ギルドへの飛び込みだ——」


「……ピピピピピピピピピピピピピピピピッ!!!!」


 新社屋を出て冒険者ギルドへと向かう道中。勇者・佐藤の脳内に、けたたましい警告音が鳴り響いた。


(神から授かった『魔王センサー』。周囲に強力な魔王級の邪気が存在すると反応するアイテム。……おかしい……)


 勇者佐藤は首を傾けた。


 サクラ社長の前にいた時も鳴っていたが、「まあサクラさんは現場の圧がすごいからな」と納得していた。


 しかし——サクラ社長から離れてマルコスと二人きりになった今も、センサーが爆発せんばかりに鳴り続けているのである!


「ピピピピピピッ!」


(な……なんでだ……サクラ社長・魔王から離れたのに、なんでまだこんなに強く反応してるんだ……!?)


 佐藤の視線が、隣で笑みを浮かべるマルコスへと向けられた。


(待てよ……? 染井さんは前世ではもっと優しくて、安全第一で、缶コーヒーをくれた温かい現場監督だった……。なのに今のサクラ社長は、前世の記憶すら曖昧で、利益と工期しか頭にない冷血社長になっている……!)


 勇者・佐藤の頭の中で、すべての点が見事に繋がった!


(そうか……そういうことか!! サクラさんの記憶を奪い、恐ろしい現場狂いに変えてしまった元凶……! こいつこそが、この世界を統べる本物の大魔王だったんだーーーッ!!)


「……マルコス。お前だな……ッ! お前がこの世界の魔王だったのか……ッ!!」


ジャキィィィィィンッッ!!!!


 勇者佐藤は涙目になりながら聖剣を抜き放ち、ギラギラとした殺意の眼光で魔王マルコスを睨みつけた!


「ひぇぇぇぇぇッ!? な、なに急に聖剣抜いてるの佐藤くん!? 私は今、サクラ迷宮建設の平社員(営業担当)だよ! 暴力反対!」


「とぼけるなッ! サクラさんを洗脳して変えてしまったのはお前だ!! 僕の最愛の染井監督を返せぇぇぇぇぇーーーッ!!」


「ちがう! 私じゃない! 社長は最初から

あんな感じだったんだってばぁぁぁぁぁッ!!」


 ドガァァァァァンッ!!


 勇者佐藤の渾身の聖剣一振りが地表を切り裂く!


 本物の魔王であるはずのマルコスは、勇者のガチ殺気と聖剣の輝きに恐怖し、営業用のパンフレットを撒き散らしながら情けなく全力逃走を開始した!


「待てぇぇぇ! 逃げるな魔王マルコスッ! サクラさんの洗脳を解除しろーーーッ!!」


「助けて社長ぉぉぉぉぉ! 営業担当の部下に殺されるーッ! 異世界労働環境がブラックすぎるーーーーッ!!」


 冒険者ギルドへ向かう一本道で、涙目になりながら本物の魔王を追い回す勇者佐藤と、情けない悲鳴を上げて逃げ回る魔王マルコスの地獄の鬼ごっこが繰り広げられるのであった。


 400年間、ずっと勇者との直接対決を避け続けて逃げ回ってきた大魔王マルコスにとって、まさに「最大のピンチ」であり「年貢の納め時」。


「ハァ……ハァ……! しつこい! しつこいぞ勇者佐藤ぉぉぉッ!!」


 営業用のパンフレットとバインダーを抱えたまま、魔王マルコスは必死に逃げ回っていた。


 背後からは、聖剣から眩い光を放ちながら猛追してくる勇者佐藤の姿。


「逃がすか魔王マルコスッ! サクラさんの記憶と優しさを取り戻すまで、僕は絶対に諦めないッ!!」


「だから洗脳なんてしてない!」


 叫びながら走りつつ、マルコスの頭の中に400年間の思い出(逃亡劇)が走馬灯のように駆け巡っていた。


 知性派魔王として君臨してきたこの400年間——。


 歴代の勇者たちが挑んできては自滅し、あるいは迷宮の奥深くに誘い込んで時間稼ぎをし、一度たりとも勇者との「直接対決」だけは避けて穏便に(引きこもって)過ごしてきたのだ。


(クソッ……! 勇者との対峙を400年も避け続けてきたというのに……! よりによってサクラ社長の気まぐれな『営業命令』のせいで、こんな道端で勇者とタイマンを張ることになるなんて……!)


 つまずいて豪快に転んだマルコスは、地面の土を噛み締めながら震えた。


 ゆっくりと歩み寄ってくる勇者佐藤。その手にある聖剣の輝きが、マルコスの目に反射する。


(……フッ。逃げ切れぬか……。サクラ社長の下で書類作成と現場作業に追われ、すっかり牙を抜かれたと思っていたが……)


 マルコスはゆっくりと立ち上がった。その瞳には、かつて世界を震撼させた大魔王としての冷徹な光が宿る。


「……ふふふ。よかろう、勇者佐藤」


「む……!?」


「400年だ……。我が勇者との対峙を避け続けてきたのは、貴様ら人間に恐れをなしたからではない……ただ、めんどくさかっただけだ」


 マルコスが外套をバサッと翻すと、その全身から溢れ出た暗黒の魔力が大気を激しく揺さぶった!


「よもや、このような形で年貢を納めることになろうとはな……! サクラ社長の洗脳だと? 戯れ言を! あの女の圧倒的な現場の覇気に屈したのは、この我が知性をもってしても抗えぬ理(ことわり)だったからだ!!」


「何を言ってるんだお前はーッ!?」


「来い、勇者佐藤! 400年分の決着、今ここでつけてやる!! 大魔王マルコスの真の力、とくと味わうがいいーーーッ!!」


 ゴゴゴゴゴゴゴ……ッ!!!!


 ついに覚悟を決めた魔王マルコス!

 400年の沈黙を破り、本物の勇者佐藤との最終決戦(※ただし営業中)の火蓋が落とされるのであった!


 ーー勇者佐藤、そんなことしていると、サクラ社長にどやされるぞ!


(『いせダン』第32話・了)

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