第30話:ダンジョン完成! 勇者と騎士団の「内見」攻略
「よしッ! これにて『サクラ迷宮建設・新本社ビル兼ダンジョン』、施工作業が完了したわ!!」
サクラ社長がピンクのヘルメットを脱ぎ、満足そうに胸を張った。
目の前にそびえ立つのは、1階がモダンなオフィス受付、2階から上が手応え抜群の仕掛けと社員(悪魔)たちが配置された最新鋭の「本社ビル兼ダンジョン」である。
「はぁ……なんと凄まじい施工スピード……。ですがサクラさん、これでようやく僕たちも解放——」
胸をなでおろす勇者・佐藤。
しかし、サクラはバッと腕を組み、ニヤリと冷徹な現場監督の笑みを浮かべて佐藤くんと騎士団を指さした!
「何言ってるのよ佐藤! 建築において最も重要なプロセスがまだ残ってるでしょ! 『引き渡し前の最終安全点検(内見)』よ!」
「な……内見……!?」
「当たり前じゃない! 設計通りにギミックが作動するか、モンスター(社員)の配置バランスは適切か、侵入者がケガをしない安全構造になっているか! 施工主として確認しないまま営業開始できるわけないでしょ!」
サクラは、バインダーに挟んだ「ダンジョン内覧チェックシート」と赤ペンを佐藤くんにバシッと叩きつけた!
「というわけで佐藤! あんたと騎士団で、このダンジョンを第1階層から最上階まで『攻略(内見)』してきなさい!! 安全性をしっかり確認して、改善点があったら記入して提出すること!」
「僕たちをファーストチャレンジャー(内見係)にするんですかーーーーーっ!?」
勇者佐藤の叫びも虚しく、身ぐるみ剥がされて下着同然の騎士団ともども、サクラ社長によって強引に巨大な重厚扉の中へと押し込まれてしまった!
ガチャンッ! パタン……!
「あ……開かない! サクラさん!?」
扉の向こうから、メガホンを通したサクラ社長のドスの効いた声が響き渡る!
「最上階の社長室まで無事に攻略できたら合格よ! ほら、足元注意! 手すりを持ってテキパキ内見してきなさーいッ!!」
「ご、ご安全にーーーーーッ!!(泣)」
こうして、本来なら「世界を救うための決戦」であるはずのダンジョン攻略が、サクラ社長による「厳しい施主検査&物件の内覧チェック」へと変貌してしまったのである!
【第1階層:トラップとバリアフリーの階】
「くっ……気をつけるんだみんな! どんな恐ろしい初調が待っているか——って、え?」
聖剣を構えて警戒する佐藤くんだったが、目の前の長い廊下を見て拍子抜けした。
壁には明るい誘導灯が灯り、足元は滑りにくいノンスリップシートが敷き詰められている。
カチッ……!
騎士の一人が床のスイッチを踏むと、頭上から巨大な鉄球が落ちてきた!
「ひぃっ!?」と身構える騎士たち。しかし——
バチィィンッ!!
鉄球は騎士たちの頭上数センチのところでガッチリと頑丈な網(安全ネット)に受け止められ、優しくゆらゆら揺れるだけで落ちてこなかった。
「な……ネット……!?」
『※労働安全衛生法に基づき、落下物防止ネットを設置しております』と書かれた看板が掲げられている。
「すごい……! 罠の緊迫感は演出しつつ、挑戦者が死なないように二重三重の安全対策が施されている……! 階段には緩やかなスロープと手すりまで完備……! 悔しいけど、めちゃくちゃ良い施工だ……ッ!!」
佐藤くんは涙目になりながら、チェックシートの『安全衛生管理』項目に【◎】を書き込んだ。
【第2階層:社員(悪魔)配置と動線の階】
続いて辿り着いた第2階層。妖しげな霧が漂う室内で立ちはだかったのは——こともあろうにサクラが騎士団魔道士に命じて召喚した怪力悪魔・バルバトスであった!
『グハハハ……! 来たな勇者! 我が自慢の怪力で粉砕して——』
「あ、バルバトスさん。そこの通路、セメント袋の積み方が高すぎて崩落の危険がありますよ。あと整理整頓の標識が倒れてます」
『えっ!? あ、すまん……! すぐ積み直す!……って、ちがうわ!! 我は貴様らを倒す刺客——』
そこへ、天井のスピーカーからサクラ社長の声が怒号となって響き渡った!
『ちょっとバルバトス!! 案内標識が傾いてるって内見者(勇者)に指摘されてんじゃないわよ!! ちゃんと定位置管理しなさい! 減給よ!!』
『ひぇぇぇッ!? すみません魔王様! 今すぐ直しますぅぅぅッ!!』
怪力悪魔バルバトスは泣きながらセメント袋を積み直し、モップを持って床をゴシゴシ磨き始めた。
「モンスター(社員)の教育と動線管理も徹底されている……。これなら迷い込んだ冒険者も安心して(?)攻略できるぞ……!」
佐藤くんは感心しながら『作業環境・案内表示』に【◎】を記入していく。
【最上階直前:最終確認】
「はぁ……はぁ……! 罠の作動タイミングは完璧、危険個所の明記も完璧……! これ、完璧な優良物件だよ……!」
下着姿の騎士団も「手すりが持ちやすくて疲れなかった」「照明が明るくて足元が安心だった」と絶賛の嵐。
最新鋭のバリアフリー空間と完璧な安全対策をくぐり抜け、勇者・佐藤と騎士団はついに最上階へと辿り着いた。
手にはびっしりとチェック項目が埋まった「ダンジョン内覧チェックシート」。
前世では厳しかった現場監督・染井サクラ。だが、これほど完璧な点検報告書を提出すれば、今度こそ自分を「元・部下の佐藤」として認め、じっくりと前世の思い出や今後の話について談話してくれるはず——。
佐藤くんは高鳴る胸を押さえ、整髪料(※ないので汗で前髪を整え)を直し、意を決して重厚なドアをトントンとノックした。
「染井監督……! いや、サクラさん! 最終安全点検、完了しました! 入ってもよろしいでしょうか……!」
ドアが重々しく開き、高級感あふれる社長室のデスクで電卓を叩いていたサクラ社長が顔を上げた。
「あ、佐藤。内見終わったの? チェックシート見せなさい」
サクラは提出されたバインダーを受け取ると、赤ペンを走らせながらパラパラと目を通した。
(よし……! この手応えなら合格だ! サクラさんと前世の思い出話をしながら、あったかいお茶でも飲めるはず……!)
目を輝かせ、感動の談話タイムを今か今かと待ちわびる佐藤くん。
だが——サクラ社長はバインダーをパタンと閉じると、腕時計に目をやり、心底呆れたように深いため息をついた。
「……はぁ。ダメね。早すぎるわ」
「えっ!?」
佐藤くんの顔から一瞬で笑顔が消え去った。サクラ社長は肘を突き、冷徹な現場監督の目で佐藤くんを睨みつけた。
「攻略時間が短すぎるのよ! 冒険者に長く滞在してもらって、中で回復ポーションを買わせたり、ギルドの滞在費を落とさせたりするのが商売でしょうが! こんなスカスカの難易度じゃ『優良ダンジョン』として集客できないわ! 改善決定ね!」
「ちょ、ちょっと待ってくださいサクラさん!? 談話は!? 前世の思い出話は!? 僕たち苦労してチェックシート埋めたんですよ!?」
「無駄口叩かないの! 現場の品質向上のために、もう一回初めから難易度調整のテストプレイ(ダンジョンアタック)をしてきなさーいッ!!」
「えぇぇぇぇぇーーーーーッ!?」
サクラがパンと手を叩くと、社長室の床に巨大な青い魔法陣が浮かび上がった!
「エルザ! 1階の入り口まで転送お願い!」
『任せてサクラ! 転送魔法、発動!』
「さあ佐藤! 2周目はトラップの作動スピードを1.5倍にしておくから、怪我しないようにしっかり体験してきなさーいッ!!」
「監督ぅぅぅーーーっ! 談話させてよぉぉぉぉぉーーーーーっ!」
「いやだぁぁぁぁぁ! もう下着姿で走らせないでくれーーーーーっ!(騎士団)」
シュヴァァァァァァンッッ!!!!
感動の談話タイムは1秒もなく崩れ去り、勇者・佐藤と哀れな騎士団の絶叫が、新社屋の転送光の中に虚しく消えていくのであった。
頑張れ、勇者佐藤!って、サクラは?!
(『いせダン』第30話・完)




