第28話 勇者の告白
「染井監督……! いや、サクラさん!! 僕です、佐藤です!!」
荒涼としたマルコス領の真ん中で、勇者・佐藤は感極まった面持ちでサクラ社長のもとへ歩み寄り、その両手をガシッと力強く握りしめた。
「僕も……あの足場崩落事故のあと、気づいたらこの異世界に転生していたんです! 聖剣を授かり、勇者として……これまでどれほど過酷な道を歩んできたか……!!」
ポロポロと涙を流しながら、異世界での死と隣り合わせだった血と汗の過去を熱く語り始める佐藤くん。
「魔導ドラゴンとの死闘、呪いの砂漠での極限状態、仲間との別れ……! 明日生き残れるかもわからない恐怖と危険の中で、僕は必死に戦ってきたんです……ッ!!」
「ふんふん、なるほどねぇ。ドラゴンねぇ」
サクラは生返事で片耳だけ傾けつつ、握られた手をあっさり振りほどくと、工程表と図面を広げてエルザとマルコスを呼び寄せた。
「はいエルザ! マルコス! 勇者(佐藤)の話は置いといて、この更地の区画整理と基礎工事の打ち合わせを始めるわよ!」
「えっ……あ、はいっ! 社長!」
サクラは完全にマルチタスクモードへと突入。佐藤くんの感動の自分語りを背景BGM代わりに聞き流しながら、怒涛の現場指示を打ち出し始めた。
「まずこの更地だけど、地盤は悪くないわね。ここを『サクラ迷宮建設・本社ビル兼ダンジョン』の施工地に決定します! いいわねマルコス!」
「もちろんです、社長。ただし、例の件はお願いします」
「あー、オートロックに顔認証の引きこもり部屋ね。了解、了解」
「サクラさん、聞いてますか!? 毒沼の迷宮で餓死しかけた時、僕を支えてくれたのは前世で監督に教わった『諦めない心』だったんです……ッ!!」
「へぇー、毒沼ねぇ。——で、マルコス! 1階は受付と弊社オフィス、2階から上を悪魔たちの居住兼ダンジョンエリアにするわよ。耐震補強計算は済んでるの!?」
「はい社長! 我が知性をもって計算済みです! ですが資材の搬入経路が——」
「搬入経路なら、さっき勇者が壊していった瓦礫を砕いて路盤材に再利用すればコストカットできるわ! エルザ、魔法で破砕作業お願い!」
「任せてサクラ! 氷魔術で一瞬で細かく粉砕してみせるわ!」
「監督ぅぅぅーーーっ!? 僕の死線を越えた壮壮絶な冒険談、全然頭に入ってないですよね!? 1ミリも響いてないですよねーーーーーっ!?」
自分の命がけの思い出話が、完全に「資材のリサイクル計画」と「コスト削減の打ち合わせ」の雑音として処理されている事実に、勇者・佐藤は膝から崩れ落ちた。
「ちょっと佐藤! 邪魔だから立ち上がらないで! そこは重機の搬入ラインになる予定なんだから!」
「扱いが雑ぁぁぁぁぁーーーーーっ!」
過酷な旅を乗り越えて「本物の勇者」となったはずの男が、完全にお手上げ状態で頭を抱えている。
その圧倒的な光景を後ろで見守っていた悪魔たち、そして勇者を追ってきた騎士団たちは、全員で顔を見合わせ、ガタガタと膝を震わせながら確信した。
(……あの大敵である本物の勇者(佐藤)すらも一瞬で手玉に取り、完全に一蹴してしまうあの威圧感と風格……! 異論の挟みようもない……これこそが、世界を支配する真の大魔王だ……!)
勇者を踏み台にして、双方の陣営からの「大魔王(概念)」への恐怖と確信が爆上がっていくのであった。
そんな周囲の勘違いと戦慄など、つゆ知らず——「ちょっとあんたら! 現場でボサッと突っ立ってんじゃないわよ!! 邪魔ーーーーーっ!!」
サクラ社長の一括が、荒野に激しく響き渡る。
——このままでは、本当に大魔王になるぞ、サクラ?
異世界の覇王になるのか、借金返済か?!
次回、想像を絶するダンジョン建設が幕を開ける!!
(『いせダン』第28話・了)




