第26話:消えた魔城! 荒野の決戦?
「ハァ……ハァ……! ここだ! 四大悪魔筆頭マルコスの領地『智謀の漆黒魔城』……!」
アスタロテ領を陥落させ、サクラ社長の「金払えー!」という咆哮から逃れるように全速力で駆け抜けてきた本物の勇者は、目的地の荒野に辿り着いた。
聖剣を握り直し、警戒全開で周囲を見渡す勇者。
……しかし、いくら目を凝らしても、そこには不気味な魔城どころか、建物らしき影すらひとつも見当たらなかった。
「……ぬ? おかしいな。大体の位置を示す『魔王センサー』はこの辺りを指しているのだが……」
目の前に広がっていたのは、見渡す限りの赤茶けた土と、時折ヒュ〜と吹き抜ける虚しい風だけの【完全なる荒涼とした大荒野】であった。
「……城は? 罠か……!? 光学迷彩か何かの高度な隠蔽魔術なのか……!?」
勇者が冷や汗を流しながら警戒を強めていると、背後から猛烈な土煙とともに、サクラ率いる一行が追いついてきた!
「待ちなさい悪徳解体業者ーーーッ!! 今度こそ捕まえて原状回復費用を……って、ちょっと何これ!?」
現場に殴り込んできたサクラ社長も、あまりの景色の何にもなさにピタリと足を止めた。
「ちょっとアスタロテ! マルコスの領地ってここで合ってるの!? 資材の搬入口も、先行工事の基礎すら何一つないじゃないの! だいたいホントにマルコスは四大悪魔筆頭なの?」
「え……ええ、間違いなくここはマルコス殿の領地ですわ……。ですが……」
アスタロテとレヴィアも顔を見合わせ、愕然と口を開けた。
そこへ、サクラ社長の後ろからヘルメットを被ったマルコスが「ふぅ、久しぶりの故郷だなあ」と呑気に顔を出した。
「社長、ここが私の自慢の領地でしてね! 知性溢れる我が配下たちが、豪華な魔城で私を盛大に出迎えて……あ……っ?」
マルコスは言葉を失った。
目の前に広がる、草一本生えていない見事な更地。
そう——400年間も城を離れ、一度も領地に帰ってこず、給料も出さなかった放置系上司マルコスに、配下の悪魔たちはとっくに愛想を尽かしていたのだ。
『あんな引きこもり上司知らん!』
『勇者も攻めてくるらしいし逃げろ逃げろー!』
悪魔たちは城を解体して資材を売り払い、全員どこかへ雲隠れしてしまっていたのである。
「……え?? 私の城は??? 配下たちは????」
己の城と部下が跡形もなく消え去っている現実に、マルコスはポカンと口を開けた。
「……?」
聖剣を構えたまま、「大魔王の巧妙なトラップか?」と周囲を捜索する勇者。
「……?」
「私の豪華なマイホームどこ行ったの!?」と冷や汗をダラダラ流してあたふたするマルコス。
荒涼とした大荒野の中央で、勇者もマルコスも頭の上に巨大な【?】を浮かべて固まっている。
——だが、ただ一人。
サクラだけは、メガホンを腰に差し、満足そうにパンパンと作業手袋を叩いた。
解体や障害物の撤去作業が一切いらない、地盤改良もやり放題のパーフェクトな更地を前にして、サクラ社長の瞳がキラリと輝く!
「解体費用ゼロ! 障害物ゼロ! 敷地面積も申し分なし!!」
サクラはピンクのヘルメットを被り直し、広大な更地に向かって威風堂々と手を掲げ、最高の笑顔で叫んだ!
「よーし! ここから始めましょうーーーーーっ!!」
「ここから始めちゃうのーーーーっ!」
勇者も、マルコスも、残された悪魔たちも、サクラのブレなさすぎる現場監督魂に全員で大ズッコケするのであった。
サクラ、始めるのはいいが、マルコスから金を回収できるのか?!
(『いせダン』第26話・了)




