第25話:陥落のサキュバス
「急ぐわよ! 施工順3番手、アスタロテ領へ全速前進!!」
氷の魔城の現場清掃と瓦礫整理を指示し終えたサクラ社長一行は、工程表を手に次なる現場——お色気担当アスタロテの領地へと急行していた。
「あの悪徳解体業者(勇者)め……! 大魔王だの精神攻撃だの意味不明なことを言って逃げやがって! アスタロテの現場まで荒らされたら、今度こそ年内の工期が完全に飛ぶわよーッ!」
「は、はい社長! しかしアスタロテ殿の領地は、足を踏み入れた男を骨抜きにする『魅惑と欲望の迷宮』! いくら本物の勇者といえど、あのお色気攻撃の前には足止めを食らうはず——」
マルコスが必死にフォローを入れた、まさにその時であった!
ドカァァァァァン……!!!
アスタロテ領の入り口に佇んでいた巨大な「ピンクの愛と欲望のアーチ門」が、聖なる光の一撃によって木端微塵に爆破・粉砕された!
「なっ……!? 我が誇り高き魅惑のゲートがぁぁぁーーーーっ!?」
アスタロテが悲鳴を上げる。
急いで現場に駆けつけたサクラ社長たちが目にしたのは——またしても凄惨な不法解体の現場であった!
「ふふふん♡ いらっしゃいイケメンの勇者様ぁ〜♡ 我がサキュバス軍団の極上のおもてなしで、骨抜きにしてあげるわ〜ん♡」
胸元を強調した妖艶な衣装で、大軍のサキュバスたちを引き連れて立ちはだかるアスタロテ。
だが——前世の記憶とサクラ(大魔王)の『精神攻撃(勘違い)』によって完全にゾーンに入り、目を血走らせている本物の勇者には、そんなお色気など一切通用しなかった!
「破無っ!! 邪悪なる魅惑の術など、我が正義の心には届かん!!」
ズバァァァァァァンッ!!!!
勇者が聖剣を一振りすると、神聖な爆風がお色気空間を吹き飛ばし、サキュバスたちの薄い衣装をことごとく切り裂いた!
「キャァァァァァッ!!?」
一瞬で全滅・壊滅するお色気防衛線!
だが、圧倒的な聖なる光とイケメンすぎる勇者の凛々しさに、撃破されたはずのサキュバスたちが頬をポッと赤らめ、目をハートにし始めたのである!
「やだ……なにこの勇者様……強くてカッコよすぎる……っ♡」
「聖なる光が眩しすぎて……アタシ、一瞬で心が陥落しちゃいそう……ッ♡」
「抱いてぇぇぇーーーッ! 勇者様ぁぁぁーーーッ♡」
「な、なんですってぇぇぇーっ!? あんたたち、悪魔としてのプライドはどうしたのよーーーーーッ!?」
アスタロテの叫びも虚しく、配下の悪魔たちは勇者の圧倒的なカリスマによってあっさりと精神まで陥落! 聖剣を納める勇者の周囲でファンクラブ状態と化していた!
「ふっ、他愛もない。悪魔の誘惑など我が剣の前には無力だ」クールに言い放つ勇者。
だが、その背後から地獄の底から響くような「元・現場監督のドスの利いた咆哮」が叩きつけられた!
「ちょっとアンタねぇぇぇーーーーーっ!!! 3箇所続けて現場を不法解体・更地にする奴があるかーーーーーッ!!!」
メガホンを手に顔を般若のように真っ赤にしたサクラが、凄まじい怒気とともに乱入してきたのである!
「ひっ……!? だ、大魔王……ッ!?」
勇者が一瞬背筋を凍らせる。
サクラは崩れ去った欲望のアーチの瓦礫を指さし、勇者の胸ぐらに掴みかからんばかりの勢いで怒鳴り散らした!
「この可愛いピンクのアーチ! 構造計算して特注の資材を発注する予定だったのよ!? それを跡形もなく吹き飛ばして……工期遅延! 損害賠償! 現場の整理整頓不備! 三重の重過失よ!ーー契約三つぶち壊しやがって!」
(くっ……また来たか! 『特注資材』や『構造計算』などという、前世の現場用語を絶妙に混ぜ込んだ恐怖の精神攻撃……! 騙されるものかぁぁぁ!!)
勇者は必死に頭を振り、冷や汗を流しながら聖剣の柄に手をかけた。
「だ、大魔王サクラよ……! 次はいよいよ……最後の悪魔城の領地だ! そこで貴様との決着をつける!!」
そう言い残すと、勇者は(サクラの威圧感から逃げるように)全速力で最後の現場へと走り去っていくのだった!
「逃げるなーーーッ! 壊したアーチの弁償金を置いていけーーーーーッ!!」
サクラの現場主義的な叫びが、陥落したアスタロテ領に虚しく響き渡るのであった。
急げサクラ!マルコスの領地へ。
マルコスは長年に渡って会社の金を横領して溜め込んでいるはず?!
最後となった四大悪魔との契約。果たしてマルコスから金を回収できるのか?!ダンジョン建設、施工できるのか?!
(『いせダン』第25話・了)




