第21話:サクラ迷宮建設ビル完成……って、社長室はどこ!?
「いい……凄すぎるわエルザ! これでようやく、雨漏りする現場テント生活からおさらばできるのね!?」
深海温泉ダンジョンの現場から帰還したサクラ迷宮建設の一行は、風でバタバタと揺れる野ざらしの現場テントの中にいた。
長年の激務に耐えかね、老朽化でプレハブ仮事務所がペシャンコに倒壊して以来、会社の本部はただの現場用テントである。
パイプ脚の折りたたみテーブルの上で、エルザがドヤ顔で広げた魔法羊皮紙には、近代建築の機能美と異世界の魔法技術が融合した、息をのむほど美しい『サクラ迷宮建設・新本社ビル』の完成パース(デザイン図)が描かれていた。
「ふふん、サクラ! 仮事務所が老朽化で潰れた時はどうなるかと思ったけど、怪我人が出なくて本当によかったわ! もうテント生活は嫌だから気合いを入れたの! 最新の魔導エレベーターに、全館自動調温機能付きよ!」
「素晴らしいわエルザ! 建築に携わる身として、自社の老朽化を見過ごしてテント生活になったのは痛恨の極みだったもの! もう風で図面が飛んでいく心配もないのね!」
サクラとエルザが感無量で頷き合う横で、折りたたみ椅子に座っていたマルコスの目が怪しく光った。
(な、なんて素晴らしいビルだ……! ここに私の個人部屋を作れば、完全防音の隠れ家になるのでは……!?)
「社長! 社長! 営業部長としての業務効率化(と保身)のため、私に『生体認証オートロック&完全防音&マジック宅配ボックス付き』の専用執務室をください! お願いします!」
「まあ、営業の電話や書類も増えてるし、それくらいならいいわよ」
サクラがあっさり許可を出すと、資材の荷揚げを手伝わされていた三大悪魔がテントの隙間からニョキッと顔を突っ込んできた。
「ちょっとお待ちください! 我が魔王様の居城に、マルコスの部屋があって我らの部屋がないなど不敬の極み! 我らも幹部部屋の施工に参加させていただきます!」
「えっ、テントが狭くなるから入ってこないで! 自分たちの部屋も作る気なの!?」
ここから、幹部たちのエゴと大勘違いが暴走を開始した。
「武闘派幹部の私の部屋には、溶岩鍛冶場と巨大トレーニングジムを入れるぞ!」とバルバトスがテントの外で叫び、「氷結データ処理室と専用研究室(自分の部屋)は絶対に譲れないわ!」とレヴィアが魔法陣を拡張。「お色気担当の私は、豪華スパ&サウナ付きのVIPルームよ!」とアスタロテが空間を捻じ曲げる。
さらに、ヴァルキリーが「社長の警護(と己の鍛錬)のため、神聖騎士団仕様の兵舎兼武具庫を!」と要求し、親方ゴルドンも「大工の棟梁部屋として、特大の木工工房と酒場を併設するぞ!」と気合十分。
「ちょっと! みんな勝手に増築しないでちょうだい! 施工管理が追いつかないでしょ!」
サクラがメガホンで叫ぶも、テンションが上がった幹部たちは止まらない。サクラは諦めてスキル【施工管理】を発動!
増築される無茶苦茶な構造計算を一瞬で上書き補正。そしてわずか数時間後――全社員と悪魔達の作業で、超豪華な『サクラ迷宮建設・新本社ビル』がド派手に爆誕したのである!
「よしっ! 無事に竣工! 全員で竣工検査(館内ツアー)を行うわよ!」
サクラ社長を先頭に、誇らしげな顔をした幹部たちが最新のガラス扉をくぐった。
エントランスに入ると、正面受付の脇に置かれたポツンとしたパイプ椅子に、一人の超絶イケメンがちょこんと座っていた。
天界からようやく合流を果たしたジョージー(ワーキャマン支店長)である。
「社長! お待ちしておりますした! ……あの、私の席ってここですか? 正面受付の真横で、自動ドアが開くたびに冷たい風が直撃するんですが……」
「あらジョージー! 綺麗な顔してるんだから受付の顔としてピッタシじゃない! 完璧な配置よ!」
「イケメンの無駄遣いですよ、社長ぉぉぉーーーッ!?」
ジョージーが涙目で叫ぶ中、一行は上の階へと進んでいく。
「2階はゴルドン親方の『大工工房&豪快酒場』! 3階はヴァルキリーの『神聖武具庫』! 4階から6階はアスタロテ、レヴィア、バルバトスの『三大悪魔・超豪華幹部スイート』! そしてマルコスの『防音オートロック営業執務室』ね!」
各部屋の豪華さに悪魔たちは「おおーっ! 流石は魔王様のスキル!」と大歓声を上げる。
だが、受付から必死に追いかけてきたジョージーが、汗を拭きながら周囲を見回し、絶望的な表情で声を張り上げた。
「……あの! お言葉ですが社長! 社長室はどこですか? お近くに……社長のお近くに私の受付デスクを配置したいのですが、探しても探しても、肝心の社長室が見当たりませんーっ!」
「ちょっとジョージー、何冗談言ってるのよ。トップの部屋がないわけないでしょ? エルザ、社長室は何階だっけ?」
サクラ社長が可憐な首をかしげて尋ねると、設計図を抱えたエルザの顔からサーッと血の気が引いていった。
「あ……あれ……? おかしいわね……最上階の7階は……」
エルザの手が震え、設計図7階部分を拡大する。そこには——
『エルザ専用・超広大デザインアトリエ 兼 スイーツカフェ』とデカデカと書かれていた。
「……エルザ?」
「さ、サクラ、落ち着いて聞いて……! みんなが『自分の部屋を広くしろ』って競い合って設計変更を詰め込んできたから……押し出される形で、社長室のスペースが図面から完全に消えてるの……!」
「………………え?」
館内に静寂が訪れた。
「……じゃあ何? 私はどこで決裁書類にハンコを押せばいいの?」
サクラの額にピキッと青筋が浮かび、ピンクのヘルメットの下で可憐な顔がドスの利いた鬼の形相へと変貌していく。
「社長室がない会社が世界中のどこにあるのよーーーーーッ!!」
サクラの怒号が響き渡る中、四大悪魔と幹部たちが慌てて膝をついた!
「お、お静まりください、サクラ社長(魔王様)! 決して不敬からではございません!」
「そうですわ! 覇王たるもの、他者と同じ階層に部屋を構えるなどあってはならないこと! 王は常に頂点に君臨するべきなのです!」
「左様! 天に最も近い『ビルの最頂上(屋上)』こそ、貴方様に相応しい至高の玉座でございます!」
「えっ……頂上……?」
サクラがポカンとする間もなく、幹部たちは余剰資材を担ぎ、エレベーターで屋上へと一斉に駆け上がった!
「ご安心ください! 我らの総力を結集し、屋上に最高の社長室を建造いたします!」
数分後。
サクラが屋上のドアを開けると、そこには風が吹き抜ける見晴らしのいい屋上スペースの真ん中に、ぽつんと佇む『グレーの新品プレハブ小屋』が完成していた。
「……なにこれ?」
「ご覧ください! 雨風を完璧にしのぎ、現場の全体を一望できる、天に一番近い社長室です!」
マルコスが誇らしげにプレハブのドアを開けて見せる。中には、折りたたみ机とパイプ椅子、そして「社長室」と手書きされた紙が貼り付けられていた。
「王の玉座に相応しい、至高の社長室でございます!!」
全員が晴れやかなドヤ顔で胸を張る。
豪華絢爛な7階建てハイテクビルの最上階(屋上=セブンスクラウド)に、ぽつんと乗っかった一基のプレハブ小屋。
サクラはプレハブと豪華ビルを交互に見つめ、可憐な顔を真っ赤に引きつらせると、屋上全体に届く絶叫を放った!
「またプレハブなのーーーッ!? もーイヤーーーーーッ!!!!」
サクラの悲鳴が、新本社ビルの青空高くに虚しく響き渡る。
サクラよ、そろそろ自身のスキルアップに気づいて、一億ゴールドを悪魔どもから奪い取れ!
(『いせダン』第21話・了)
そろそろサクラを応援してください!
よろしくお願いします!




