第2話:天才デザイナーと悪魔の営業
★ありがとうございました
初現場での改修を成功させ、なんとか破産を回避した『サクラ迷宮建設』。
依頼人のグラニットから受け取った報酬——銅貨50枚の入った麻袋を、サクラは事務所の机の上にバサッと置いた。
「よし! この銅貨50枚で、早速、現場を任せられる職人を雇えるだけ雇うわよ!」
「さすが社長、お目が高い! 現場の労働環境改善ですね。では早速、あちらの資材小屋で『こんなポンコツ会社やってられるか!』と麦酒をあおっている頑固ドワーフ・ゴルドン親方を正式に我が社の現場監督として雇用契約を結んでまいります!」
マルコスが手際よく契約書を交わしに行き、無事に頼もしい(そして頑固な)職人と掘削モグラを確保した。
事務所へ戻ってきたマルコスは、なにやらニヤニヤと不敵な笑みを浮かべていた。
「で? 聞くけど、あんたが持ってきたその『超大型案件』って何なのよ」
事務所のパイプ椅子に腰掛け、冷めた麦茶を啜りながらサクラは目の前の男——悪魔のマルコスを睨みつけた。
ビシッと着こなしたスーツに不敵な笑み。いかにも「口から出まかせで家一軒売りつけそうな営業マン」のオーラがプンプン漂っている。
マルコスは恭しく革のバインダーを開き、羊皮紙をサッと差し出してきた。
「クライアントは新鋭悪魔の貴族様。ご要望は『近隣の領地を一望できる絶景の丘に、新築ダンジョンを一棟建てたい』とのことです」
「新築案件! いいじゃない、解体や改修よりやりがいがあるわ。予算は?」
「金貨50枚。破格でございます!」
「金貨50枚!? すごいじゃないマルコス! やるわね!」
思わず立ち上がって歓声をあげたサクラに、マルコスは極上の営業スマイルのまま、そっと小声で付け加えた。
「ただし……工期は本日より3日間。それと、建築デザインには『超高額なデザイナー』を指名されております」
「……はい?」
一瞬で血の気が引いた。
「3日!? ゼロからの新築で工期3日って正気!? 基礎工事だけで終わるわよ! それにデザイナーって何よ! ダンジョンなんて頑強で使いやすい穴掘っておけばいいのよ!」
「失礼ね! ダンジョンはただの洞窟じゃないの、『作品』よ!」
バンッ!と勢いよく事務所のドアが開き、風と共に飛び込んできたのは、長い銀髪をなびかせた一人のエルフだった。
背中には定規と巨大なコンパス、手には羊皮紙のロールを大量に抱えている。
「私が今回、特別にデザインを手掛けてあげる天才建築士、エルザよ! 感謝しなさい、人族の社長さん!」
「エルザ……? あんたが指名デザイナー?」
「そうよ! 既成概念にとらわれた暗いダンジョンなんてナンセンス! 私が描いた設計図を見るがいいわ!」
エルザが机の上にバサッと広げた図面を見て、私とマルコスは絶句した。
「……ねえエルザ。これ、外壁が全部『クリスタルガラス張り』になってるように見えるんだけど?」
「ええ! 日差しが差し込む明るいダンジョン! 映えるでしょう!? 階層ごとに流星が降る魔法トラップと、天井から美しく流れる滝のトラップも配置するわ!」
「バカなのっ! ガラス張りにして外から丸見えだったら迷宮の意味ないでしょ! それに流星トラップって何? 報酬金貨50枚がトラップ一つで吹き飛ぶわよ! 現場の防水工事どうすんのよ、滝なんか作ったら!」
「アートを理解できない泥臭い社長ね! 芸術は爆発なのよ!」
「爆発させないでよ、現場を!」
頭を抱えて叫ぶサクラに、マルコスが揉み手しながらすり寄ってくる。
「まあまあ社長。エルザ先生のこの尖ったデザインだからこそ、クライアントも金貨50枚を出すと言っているのです。これを逃す手はありませんよ」
「あんたねぇ……。 現場の苦労も知らないで、口八丁で無茶な案件ばかり取ってきて!」
「ハハハ、営業とは夢を売る仕事ですから!」
「夢で現場の人間は飯が食えないの!」
―ドカン!!
その時、事務所の床が激しく揺れ、地中から巨大な土煙が巻き上がった。
「誰だ! 現場も知らねぇでデけぇ口叩いてる営業とデザイナーは!」
土煙の中から姿を現したのは、巨大なツルハシを担いだ頑固顔のドワーフ——我が社の現場監督、ゴルドン親方だった。
「社長! 外で掘削担当のモグラどもが『急な新築工事なんて聞いてねぇ!』って暴れ始めてるぞ! しかもその設計図、角が尖りすぎててモグラたちが『落ち着かない』って掘るのを拒否してやがる!」
「なんですって!? 私の完璧な黄金比デザインを侮辱する気!?」
「あぁん!? 現場のモグラたちの苦労も知らねぇでオシャレぶってんじゃねぇぞ、ポンコツエルフ!」
「ポンコツ……!? なんですってぇぇぇ!」
バチバチと火花を散らすエルザとゴルドン。
ニヤニヤと高みの見物決め込む営業のマルコス。
外から聞こえるモグラたちの「ミミズ給食を増量しろ!」というシュプレヒコール。
サクラは頭痛に耐えながら、ピンクの安全ヘルメットを力任せに被り、顎紐をカチリと締めた。
「全員黙りなさーーーいッ!!」
現場に怒号が響き渡り、全員がピタリと動きを止めた。
「工期はあと70時間! エルザ、デザインは大幅修正! ガラスは『強化魔法ガラス』に落として予算カット、滝は循環式にして防水層を2重にする! ゴルドン親方、モグラたちには高級タレ味のミミズを私が自腹で差し入れるからすぐ掘らせて! マルコス、あんたは現場の手伝いに回るのよ!」
「えっ、私が現場作業を……!?」
「当たり前でしょ! 営業が取ってきた尻ぬぐいは自分でもやりなさい! 全員、腹くくりなさいよ! サクラ迷宮建設、これより地獄の突貫工事を開始するわ! 本日も一日——ご安全にッ!!」
「ご、ご安全に……!?」
こうして、癖がありすぎる社員たちを従え、サクラの「第1号・新築大規模突貫工事」のカウントダウンが始まったのだった。
(第2話・了)
★よろしくお願いします。




