第1話 現場監督、異世界で社長になる
祝! アニメ化決定?!
「……だから言ったじゃない! 砕石の搬入と配管の工程表がバッティングしてるって! 朝イチで現場入るから段取り組み直しておいて!」
激しい車すれ違いの音、アスファルトの匂い、そして頭の上から降ってくる絶望的な地鳴り。
ゼネコンの現場監督として20年間、ヘルメットと安全靴を体の一部にして生きてきた中年女——染井さくら。
クレーンのアームが倒れてくる刹那、「ああ、今週の休日出勤手当どうなるんだろう」なんてバカなことを考えたのが、前世の最後の記憶だった。
◇
「……う、頭が重い……。現場の配管が……」
眩しい光と、ツンと鼻を突く土埃の臭いの中で目を開けると、そこは崩れ落ちた岩の山——見事なまでの「現場崩壊」の真っ只中だった。
そして目の前には、整った顔立ちに漆黒のスーツを纏った超絶イケメンが、心配そうにこちらを覗き込んでいる。
「社長! お目覚めになりましたか! 大丈夫ですか社長!?」
(……だれ? 佐藤くん……? じゃないわね、こんなイケメンいたかしら……)
「……うーん、なんとかね」
(え! 私の声……?)
自分の声が高く、鈴を転がすような音になっていることに驚いて手を見ると、小さくて綺麗だが傷だらけの若い女性の手。頭には、奇跡的に無傷だったピンクの安全ヘルメットがチョコンと乗っていた。
「ああ、よかった! 無事なら何よりです! さあ社長、意識がはっきりしているうちに、この『破産申請書』と『借金1億ゴールドの催促状』にサインを!」
(え! 何!? 破産!? 1億ゴールド!?)
脳内で突如弾けた謎の言葉に、私は慌てて辺りを見回した。
見覚えのあるアスファルトも、工事用シグナルもどこにもない。
あるのは、ゴツゴツした不気味な岩肌と、見たこともない紫色の空。そして、自分の足元に転がる『サクラ迷宮建設』と書かれた木製の崩れた看板だった。
(ど、どうなってるの……!? ここは一体どこなのよーーーッ!?)
あまりの異常事態に頭がフリーズしかけたその瞬間、自分の頭の中に見知らぬ記憶が一気に流れ込んできた。
この身体の持ち主は、ズボラでどんぶり勘定の末、欠陥工事で現場崩落事故を起こしてしまった『ソメイ・ラ・サクラ』。
老舗ダンジョン建設会社の一人娘。両親は既に他界し、若くして従業員1人の落ちぶれた建設会社社長に就任。不幸にも無理がたたって建設現場で死亡。
ここは剣と魔法とダンジョン産業の世界『アルカディア・グラウンド』。
そして目の前のイケメンは、たった一人残った従業員。秘書兼営業マン、元・詐欺師の悪魔マルコス。負債と称して会社のキャッシュ10万ゴールドを持ち逃げするつもりだった。
状況を理解しかけた私の目の前に、マルコスがニッコリと極上のビジネススマイルでペンを差し出してきた。
「さあ、こちらに署名をお願いしますね」
(……破産申請? 1億ゴールド!)
「ちょっと待ちなさいよーーーっ!! 倒産寸前じゃないのよ!!」
私は差し出された書類を力任せに跳ね飛ばして跳び起きた!
「社長、あなたのズサンな突貫工事のせいで現場は全壊、手持ちの資金はゼロ! 倒産して自己破産するのが一番の解決策でございます!」
「ふざけないで! ゼネコンで20年修羅場を潜り抜けてきた私が、倒産なんて恥ずかしいマネできるかぁぁぁ!!」
「にじゅうねん……?
何を仰っているのです社長……?」
(瓦礫で頭を強打したせいか……?)
妙にハキハキと、見たこともない凄まじい眼光で怒鳴り散らす社長の変貌ぶりに、マルコスは心の中で深く首を傾げた。
そんなマルコスを無視し、私はピンクのヘルメットの顎紐をカチリと締めた。
前世(染井さくら)の20年の現場知識と、この身体に宿った魔法スキル【施工管理】が、脳内で完璧にリンクする。
「マルコス! 破産申請は保留! 今すぐ取れる案件はある!?」
「ええっ!? 提案としては、近隣の弱小悪魔グラニット様から『しょぼすぎる初期ダンジョンをなんとかしてくれ』という改修依頼がありますが……予算は銅貨50枚、工期はたったの半日ですよ!?」
「引き受けるわ! 現場へ案内しなさい!」
◇
やってきたのは、ただの暗い洞窟?
依頼人の弱小悪魔グラニットが涙目で訴えてくる。
「社長! 昨日も村人Aみたいな冒険者に『罠もないし暗いだけのただの洞窟じゃん』って笑われたんだ! このままじゃ悪魔としての威厳が……!」
「任せなさい!」
私がスキル【施工管理】を発動すると、視界に洞窟のCAD図面(光の構造線)が浮き上がった。
「うわ……なにこの現場、動線がめちゃくちゃじゃない! 入口から直線でボス部屋に行けるってバカなの!? 冒険者に探索させる気あるの!?」
「だ、だって迷子になったら……」
「ダンジョンは迷わせてなんぼでしょうが!! 安全第一でパニックに陥らせるのがプロの施工よ!!」
私は現場にあった岩や土の魔法配置コマンドを打ち込み、目にも止まらぬ速さで現場を指揮し始めた。
1. 動線の改修:一直線だった通路を「T字路」に変更。視界を遮る壁を魔法で急速隆起。
2. トラップの設置:奥の間欠泉の蒸気を利用し、足元のスイッチを踏むと「熱い蒸気が噴き出して進めなくなる」簡易スリル仕掛け(※火傷しない絶妙な温度調整)。
3. 演出の強化:入口にドクロのオブジェクトを転がし、雰囲気を怪しく演出。
「よーし! 『初心者がギリギリ冷や汗をかいて撤退する、絶妙にスリルあるダンジョン』の完成よ!」
作業開始からわずか4時間。
そこへタイミングよく、昨日グラニットを馬鹿にした新米冒険者パーティがやってきた。
『へっ、今日もあのしょぼい洞窟で小遣い稼ぎ……って、なんだこれ!?
壁ができてる!? うわ、急に蒸気が噴き出してきたぞ!? 今の俺たちじゃ全滅する、引き返そう!』
慌てて逃げ出していく冒険者たちの背中を見送り、グラニットは大号泣した。
「す、すげえ……! 冒険者が俺のダンジョンに恐怖して逃げていった……!! ありがとう社長! 君は恩人だ!!」
【初現場:施工完了。利益:銅貨50枚+実績★1獲得!】
「ふぅ……まあ、最初の現場としては上出来ね」
汗を拭い、ヘルメットを脱ぐ私の横で、秘書のマルコスは顎が外れそうな顔で固まっていた。
「な、なんですかその鮮やかな施工手腕は……! 今までのポンコツぶりが嘘のようだ!」
(まさか本当に……瓦礫に頭をぶつけて覚醒したのか……!?)
マルコスの目が、怪しい光を放ち始める。
「撤回いたします社長! 破産申請書は破り捨てました! あなたのその『スキル』があれば、一億ゴールドの借金返済どころか、このアルカディア・グラウンドのダンジョン建築業界を制覇できます!!」
「制覇までは言ってないでしょ……! とにかく、残業ゼロのホワイト企業を目指して立て直すわよ!」
こうして、崩落事故での破産一歩手前からの再スタート!
苦労人サクラ社長とイケメン悪魔マルコスによる、波乱に満ちた『サクラ迷宮建設』の快進撃が幕を開けたのだった!
(第1話・了)
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★★★★★をいただけたら、第2話執筆します
★★★★★をいただけたら、第2話執筆しまーす




