第17話:天界公務員ガイド
『異世界ダンジョン施工ガイド』第42章「天界の公務員について」より。
「天界における公務員天使とは、宇宙で最も打たれ強く、同時に最も働かない生命体である。彼らの持つ唯一の特技は『ハラスメント主張』と『定時退社』であり、彼らを動かす唯一の方法は、力でも脅迫でもなく、無意味な“手続”である。彼らと遭遇した際、決してパニックになってはならない。ただ静かに『ご安全に!』と唱え、申請書類を提出しなさい」
「……なにこの不条理すぎるガイドブックは。こんなのただの営業妨害じゃないのよ! 厳格なのは下界で働く時だけなの!」
深海1000メートルの現場から魔法陣で雲の上へと転移したサクラは、手元の魔法鏡に映し出されたガイド文を読み上げ、うんざりしたように頭を抱えた。
雲海にそびえ立つ、荘厳だがどこか退屈そうな天界庁舎。
その入口で、元天界監査役ジョージーが「サクラ社長ぁぁーッ! お待ちしておりましたーッ!」と両手を広げてダイブしてきたが、サクラの横に立つ人事部長ヴァルキリーが、手帳をスッと差し出して無表情にブロックした。
「ジョージー支店長、業務時間中の私的接触はセクハラおよび業務過失にあたります。記録しました」
「相変わらず厳しいーッ!? でもサクラ社長、助けてください! ダンジョン施工以前の問題なんです!」
ジョージーが泣きついた先には、頭を抱えて大量の巨大なハンコの山に埋もれている天界の王の姿があった。その顔はげっそりと痩せこけ、手元には胃薬が山積みになっている。
「サクラ殿……よくぞ来てくれた……。我が天界の浮遊ダンジョン計画は、完全に挫折しておるのじゃ……」
「王様、一体どうしたのよ? 私が来たからには、浮遊ダンジョンなんてすぐ建つわよ?」
サクラが尋ねると、天界の王は涙目で手元の巨大な書類を指さした。
「建設がどうこう以前に……『ダンジョン着工許可申請書』の承認に、天使100人の決済印と、300箇所の窓口の通過が必要なのじゃ……。だが奴らは全員公務員! よほどの不祥事でもない限りクビにならんのをいいことに、全く働かんのじゃ!」
サクラが雲の上の窓口を見渡すと、翼を生やした天使たちが優雅にハープを弾いたり、雲を千切って食べていたりしていた。
王が「おい、少しは申請書を処理しなさい!」と声をかけると、ズボラそうな天使の一人が面倒くさそうに振り返った。
「は? 王様、今のお説教のトーン、威圧的で不快なんですけど。パワハラで『天界コンプライアンス委員会』に訴えますねー」
「え〜、ハンコ押すとか指の筋肉使うから無理〜。モラハラで〜す。あと私、17時で定時なんで帰りま〜す」
そう言うと、天使たちは17時のチャイムとともに、書類を宙に放り投げて一斉に消えてしまった。
「全 員 放 棄 し た ーーー ッ !?」
サクラの絶叫が雲海に響き渡る。
ヴァルキリーが淡々と手帳をスワイプしながら補足した。
「これが天界の日常です。なお、彼らは労働組合を結成しており、クビにはできません。労働しない権利を全力で主張しています。ちなみにジョージーは組合費が高いとの理由で非組でしたが」
「クビにならないのを盾に、文句と難癖だけ垂れ流すなんて……! なんて凶悪な官僚主義なの……!」
サクラは頭を抱えたが、ふと元行政職&現場監督としての血が、ドクドクと不穏な音を立てて沸き立つのを感じた。
「……待ちなさい。クビにできない。働かない。窓口をたらい回しにする。17時に絶対に消える……。……これって、そのままアトラクションになるんじゃないかしら?」
「えっ……? アトラクション……!?」
ジョージーと王がポカンとする中、サクラの目が怪しく光った。
「そうよ! ダンジョンを作るんじゃないわ! 『この不条理なお役所手続きそのもの』を冒険者向けの体験型ダンジョンにしてしまうのよ!」
サクラはパンッとヘルメットを叩き、天界の王とヴァルキリーに向かって『施工管理』の集中講義を始めた!
「いい!? 題して『天界お役所迷宮・〜定時退社とAIスライムの恐怖〜』よ!」
1. 【窓口たらい回し・申請書迷宮】
冒険者は「通行許可証」を得るため、300の窓口を巡る。天使が「あちらの窓口へどうぞ」とたらい回しにするたびに、ダンジョンの構造が回転して難易度が変わる!
2. 【言い訳風車とコンプラ審問】
天使が「私の担当じゃありません!」と言い訳すると風車が回って足場が崩れ、「パワハラだ!」と叫ぶと法廷空間が自動生成! 冒険者との正論バトルが発生し、論破された天使は評価ポイントが激減する!
3. 【閉庁17時タイムアタック】
17時になると天使は強制退社する! 17時までに冒険者を爆速でゴール(手続き完了)させないと、天使には「無給の大量書類整理ペナルティ」、冒険者には「明日また最初から並び直し」の地獄が発生!
4. 【星1評価と自動受付スライム(AI)の脅威】
冒険者は天使の対応を『ガイドブック』に星1〜5でレビュー投稿。さらに、サボる窓口にはワーキャマン製『全自動受付スライム』を即座に投入! スライムに仕事を奪われた天使は、一生何もしない『手持ち無沙汰の窓際部屋』へ永久追放!
サクラの怒涛のプランを聞き、天界の王は感動のあまり膝から崩れ落ちた。
「す、素晴らしすぎる……! 働かない奴らには『働かざるを得ない仕組み』を、冒険者には『不条理を楽しむスリル』を与える……! これぞ究極の浮遊ダンジョンじゃ!!」
ヴァルキリーも深く頷いた。
「完璧です、サクラ社長。人事評価制度とリストラ(スライム代替)の恐怖を組み合わせた、実に合理的で残忍な更生プログラムです」
翌朝。
更生(強制ダンジョン運営)の初日を迎えた窓口で、サクラ社長はピンクの安全ヘルメットをかぶり、メガホンを手に天使たちへ向かって吠えた!
「いい!? 貴方たちの定時退社と権利は保障してあげる! ただし! 17時までに冒険者を神対応で爆速案内しなさーーーい! さもないと全員スライムに業務代替して、窓際部屋行きよーーーーっ!!」
「ひぃぃぃぃぃーーーーっ!?(爆速で神対応の案内を始める天使たち)」
こうして、宇宙で最も打たれ強く、最も働かない公務員天使たちの、怒涛の「神接客&爆速業務」が幕を開けたのである。
サクラ! 契約内容は確認したのか?! 一億ゴールドの負債は?!
(『いせダン』第17話・了)




