一枚のコインで家が建つ⑫
探偵などと意気込んだわりには、塩井が捜査のために選んだ手段は現実的だった。
「神主に頼んで監視カメラの映像を見せてもらおう」
「推理とかしないんですか」
「窃盗だぞ。推理もなにもあるか。映像こそが動かぬ証拠じゃないか」
塩井による探偵ごっこに、少しでもワクワクしてしてしまった自分が憎い。高校生が日常の謎に挑む、といった漫画みたいな展開をどこか期待していたのかもしれない。
だが塩井の言う通り、これはただの窃盗事件だ。証拠映像を見れば解決するので、探偵は不要だった。
「じゃあとっとと監視カメラの映像チェックしましょうよ。で、早く帰らせてください。もうすぐ日付変わっちゃいます」
せっかくの金曜の夜。一週間で一番贅沢に時間を使える時を邪魔された事に、今になって腹が立ってきた。一瞬塩井に頭を抱かれてほだされたが、そんな小手先の誤魔化しは香月に効かない。
「神主さんって境内に住んでるんでしょ?まだ起きてますかね」
境内に向かって歩く香月を、塩井が引き止める。
「待て待て。神主が境内に住んでるなんていつの時代の話だ」
「え、違うんですか」
「普通に持ち家がある。そこの角を曲がったところにでかい家があるだろう。そこが神主の住居だよ」
「もしかして、あの緑の屋根のお屋敷みたいな家ですか?」
小さいころから何度も見てきた、地元住民にはなじみのある家だ。香月の実家の2倍、いや3倍の大きさはある。さらに庭まで付いているので、総面積で言えば香月の家の5倍近くはありそうだ。
「稼いでるんですね、神主って。信仰心を金に変えるあこぎな商売ってわけですか。けっ、いいご身分で」
「香月、なんか機嫌悪い?」
「別に。あとは配信見ながらダラダラ夜更かしするだけだったのに、それを邪魔されて怒ってるとかじゃないですよ」
「…悪かったよ」
不機嫌を隠さない香月の言い方に、塩井はいつもの調子で反論してくると思ったが、なぜか今夜はしおらしい。反省という言葉とは無縁のはずの塩井が、気まずそうに目を伏せている。これではこちらの調子が狂ってしまうではないか。
「あーもう、そんな顔しないで。早く神主さんの家に行って、用事を済ませましょう。先輩そんな薄着で出てきちゃってますし、まだ夜は冷えるんだから風邪ひきますよ」
弱弱しい塩井を前にすると、どうしても態度が軟化してしまう。厳しくなりきれない自分が情けない。




