一枚のコインで家が建つ⑨
塩井と前田の合作は、思いもよらぬ反響を呼んだ。前田が自身のアカウントで宣伝したことに加え、塩井が校内でも自作のプロモーションを行ったことで、普段は人の来ない神社が大盛況。塩井の募金に協力した一年生たちは、自分の小銭がアートへと姿を変えたことに感動した様子だ。おまけに塩井に心酔している子が多く、まだわれらが部長のことを変人ではなくただの美人だと思い込んでいるらしい。
集まった一年生と、人だかりを見てなんとなく立ち寄った通行人による口コミが広がり、小銭のモザイクアートは地元を騒がせた。
「やりましたね、前田先生」
「まさかネットで細々と描いてたイラストが、こんな形で世に出るなんて」
「雑音は気にせず、これからも描き続けてください。うちの部員は前田先生の作品を痛いとか言ってますがね」
塩井と前田が同時にこちらを振り向いた。
「いやだって、気取ってる感じして痛いんですもん。世の中を風刺してるつもりになってるだけでしょ」
「酷いですよ、香月さん。先生悲しい」
「橘もそう思うよね?」
「思う」
前田の作品に対しては、肯定派と否定派で綺麗に分かれていた。恋人の宇崎は無論手放しで賞賛しており、塩井も肯定派。そして意外なことに、岩崎もそちら側だった。部内で否定派を貫いているのは、香月と橘の二年生コンビだけだ。
「でも人集まってるんだよなあ」
「ね。なにがそんなにいいんだろう」
いつの間にか学校帰りの小学生まで集まってきた。意味が分かって見ているのか、それとも大量の小銭が珍しいだけなのか。
「まあ中身はどうであれ、現代アート部が始まって以来初めての活動実績と言えるんじゃないですか」
「初めてだと?香月よ、君は一年以上在籍しているくせにそんな事を言うのか。今まで私のなにを見てきたんだ。してただろう?活動」
「実績と呼べるものは何もなかったですけど」
校内に猫に見せかけたビニール袋を放ったりなど、迷惑行為の数々は行ってきたが。
「これで現代アート部の評価もうなぎ登りだ。念願の入部希望者も現れるはずさ。歓迎会の準備をしておかないとな」
「気が早いんだから。どうせすぐ飽きられますって」
香月の後ろ向きな考えとは裏腹に、連日モザイクアートは盛り上がりを見せた。展示から一週間が経ってもまだ人だかりができている。前田が自身のアカウントで、作者情報として塩井の顔を公開したのも大きかった。ネットに顔をあげるのは良くないと香月は止めたが、減るもんじゃないし構わんと、塩井は顔写真の掲載を許可した。
風刺系美少女アーティスト。そんな大層な異名が付けられ、塩井は瞬く間に時の人となった。
「先輩、有名人になった気分はどうですか」
「悪くはないな。だが見てほしいのは顔じゃなくて作品なんだが」
「美人ゆえの悩みってやつですか、妬ましい。憎たらしい」
作者とともに話題となったモザイクアート。それが消えたのは、金曜の夜のことだった。




