一枚のコインで家が建つ⑧
塩井がモザイクアートの展示場所に選んだのは、神社だった。松尾芭蕉が訪れた事があるとかないとかで、地元ではそこそこ名が通っている。香月は生まれてずっとこの地で暮らしながら、いまいちその神社が何を祀っているのかも知らなかった。
「神社で展示なんてやめてください、罰当たりですよ」
「君は私の作品を神への冒涜だと思っているのか?」
カエルの死骸に煙草の吸い殻を差したりと、塩井は生命への冒涜ともとれる作品をいくらか生み出してきた。神に無礼を働いてもおかしくない。
「安心したまえ。勝手に設置するわけじゃない。神主には許可を取ってあるさ」
「よく許してくれましたね。ハニートラップでも仕掛けたんですか」
「神に仕える人間が、たかが女子高生の色仕掛けになんて引っかからないさ。私の親戚と神主とは昔ながらの付き合いがあってね。と言っても、私が個人的に知り合いなわけじゃないんだが、人づてに頼んでみたら簡単にオッケーしてくれた。アートに理解がある人で助かったよ」
塩井が作り出した小銭のモザイクアートは、主に500円玉で構成されていた。その数およそ700枚。ざっと計算したところ、前田と宇崎の月給を合わせた金額より少し低いくらいだった。募金をしていたのが塩井でなく香月や橘だったら、こんなにも500円玉ばかり集まらなかったはずだが、いかんせん塩井のことだ。校外で募金を行った時も、顔が可愛いという理由だけでみんなお金を入れていくものだから、あっという間にこの金額。
そして肝心のアートの内容は、前田がSNSに投稿していた風刺画気どりのイラスト。奥には仏、手前には現代人。その間には、壁のようにスマホが差し込まれている。スマホ画面にはアイドルや配信者の顔が浮かんでおり、人々の視線は尊ぶべき仏ではなく、画面に映る人物たちに集まっていた。
「なんすかこれ」
香月には理解できなかったので、直接作者である前田本人に聞いた。
「えっと、今って推し活をするのが当たり前の世の中じゃないですか。昔はみんな、神様仏様を崇拝してましたけど、現代は人の数だけ推し、つまり尊ぶ存在がいるわけです。だから現代人は信仰心を失って、神様仏様のあり方も変わってきてる。ってことを表現したくて」
「それを神社に展示するって、先生それ罰当たりもいいところですよ」
「だ、ダメですかねえ?」
崇拝の否定を表現したアートを神社で展示する。よくそれがまかり通ると思えたものだ。だが神主がオッケーしているというのだから、香月はもう何も言うまい。
700枚の小銭によって描かれたモザイクアートを前に、制作者である塩井と原案の前田は満足げに腕を組んでいた。
「壮観ですね」
「これSNSに載せてもいいですか?」
「バズり散らかしてください」
「はい。散らかします」
顧問くらいはまともであってほしかったが、その希望も打ち砕かれてしまった。




