一枚のコインで家が建つ⑤
「いくら集めてきたんですか。うわ、おもっ!」
一時間足らずでこの重量。すべて小銭とはいえ、相当な金額になりそうだ。
「最近の若者は気前がいいな。芸術を通して地域振興をしたいという私のプロジェクトを聞くまでもなく、ホイホイ金を入れてくれたぞ」
それは容姿を餌にした塩井に、まんまと釣られた一年生たちが悪い。一人あたりいくら入れたのか知らないが、その金は自分のために使うべきだった。少なくとも塩井の手に渡るべき金ではなかったはずだ。
「いくら入ってるんですかね、これ」
橘がパンパンの募金箱をつつく。
「金額はどうでもいい。肝心なのは小銭の量だからな」
塩井は募金箱の底をカッターで切り取り、バケツに中身を開けた。じゃらじゃらとけたたましい音を立てて、小銭が雪崩を起こしたように振ってくる。
「す、すごい量…」
あまりの小銭の多さに、橘が後ずさっていった。
「これ使ってなに作るんでしたっけ?」
「ネットで見たように、らせん状や幾何学模様に小銭を積んでみるのも考えたんだが、それだとどうにも展示には向かないだろう?」
「展示って、どこかで公開するつもりなんですか」
「一応約束事は守らないとな。アートで地域振興と銘打ってるんだし、個人でコソコソ楽しむのではなく、作品をみんなに見てもらわないと」
香月が口酸っぱく言い聞かせた甲斐があったのか、塩井の中に常識の欠片みたいなものが生まれている。部長の教育も部員の務めだ。
「小銭を使ってモザイクアートを作ろうと思う」
モザイクという単語が聞こえた瞬間、部室の扉がノックされた。どうぞ、と声をかけると、深川がゆっくりと扉を開けて入ってきた。
「薄いほうが好みです」
「何の話ですか」
「モザイクの話ですよね?」
「モザイクの話ではありますけど」
「あまり濃すぎると想像力で補完するのが難しいと思うのですが」
「だから何の話してるんですか」
「モザイクの話ですよね?」
深川が自作の漫画を塩井からは見えない角度で開いた。そこに描かれいるのは、塩井そっくりの美少女キャラクター。一糸まとわぬ姿で、あでやかな表情を浮かべている。
「ひぃぃ!」
橘が飛びずさった。
「これからこの子の秘部にモザイク処理をしないといけないのですが、どのようなかけかたをすれば、より読者のイマジネーションを搔き立てられるかと悩んでまして」
モザイクはモザイクでも、この人だけ話の方向性が違う。
「お帰り下さい」
「どうして」
「話がかみ合わないからです」
深川は淫靡な漫画とともに生徒会室へ退散していった。油断も隙もありはしない。少しでも性的な表現を思わせる単語を言えば、どこからともなく深川が現れてしまう。




