一枚のコインで家が建つ⑥
先日付けで顧問となった前田が塩井の考案したプロジェクトを聞いて、感心したように声を漏らした。
「さすが塩井さん、考えることが違いますね。ご立派です」
「そうでしょうとも」
謙遜という文字は塩井の辞書にはない。
「あ、一つ気になったことがあるんですけど、いいですか?」
「なんでも聞いてください」
「モザイクアートって、現代アートなんですかね?」
塩井の眉がぴくりと動いた。
「前田先生、それは一体どういう意味です?」
「あ、いえ、そんな深い意味は…」
塩井の冷たい視線に捉えられた前田は、親に怒られた子供のように萎縮している。
しかしそこは教師と生徒。大人としての威厳を見せることも教育の一環だ。口を結んで塩井に向き直った前田からは、その覚悟を感じた。
「あ、あのですね。モザイクアートって歴史が古くて、古代ローマくらいから使われてたって本で読みました。それって現代アートとは言わないのでは…」
「甘い」
「え?」
「甘いですよ、前田先生。確かにその理論も間違いではありませんが、そんな事を言い出したら全ての芸術は古代由来のものになってしまいます。現代アートの本質は作品そのものよりも、作品が伝えるメッセージや社会への問いかけにあるのです」
「は、はあ」
「芸術は時代とともに形を変えていく。私が目指すのは、この世の中に対して深いメッセージを投げかける現代アートなんです」
これまでの塩井の作品群を見る限り、香月には何のメッセージも読み取れなかった。理解されないほうが現代アートっぽさはあるが、塩井の理論に則るならば、メッセージの内容は分かりやすく伝えないと意味がないのでは。
「それでは塩井さんは、集めた小銭を使ってどんなアートを作るんですか?」
「ふむ、そうですね…。せっかくなら先生方にもアイデアを出してもらいたいと思っています。せっかく顧問になってもらったんですから」
「分かりました。それじゃ、恵ちゃんも呼んできますね!」
部活の顧問にかこつけて、放課後も一緒の時間が確保できて嬉しい気持ちが溢れている。パタパタと足音が聞こえそうな足取りで、前田は宇崎を呼びに職員室へ向かっていった。




