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廃部リミット⑨

 「2年で同じクラスになるとはね」


 「だね」

 

 「それにしても1年生は若いねえ。私も1年前はあんな感じだったのかな」


 「違うと思う」


 「なんでよ」


 「香月はフレッシュさがない」


 「お前にだけは言われたくない」


 校庭の隅に、自作のトリックアートを仕掛ける1年生。改めて考えると、よっぽどおかしな存在だった。


 「今日の勧誘だけど、現代アート部は中庭でやれってさ」


 「文化部は体育館じゃないの?」


 「私たちみたいな弱小部活に、体育館なんて一等地が割り当てられるわけないよ。中庭の、それも隅っこのほうのスペースでやれと、生徒会長からお達しがきたよ」


 「ま、そんなもんか」


 

 入学式が終わると、ついに勧誘が始まった。まるで祭りに来たかのような熱気だ。特に人気の運動部には、呼び込みがなくても人が殺到している。中堅の部活は、必死にビラ配りをして新入生を取り込もうと頑張っていた。


 そして現代アート部はというと…。


 「岩崎、声かけしてきてくれ」


 「嫌や。なんでウチなん」


 「一番声がでかいからだよ。サッカーやってた時も、馬鹿みたいに大声出してただろう?」


 「また馬鹿って言うたな!そんなもん部長のお前が率先してやれや!」


 現代アート部に割り当てられた場所はちょうど日陰になっており、中庭を通る新入生からもスルーされている。3年生に上がった2人は、相変わらず喧嘩ばかり。勧誘を一切せず、お互いを罵り合っていた。


 だがこの2人、とにかく見た目がいいものだから、口喧嘩がヒートアップするにつれて、ブースの前で足を止める新入生が増えていった。墨を流したような黒髪に、冷たく美しい瞳を持つ塩井。少年のような溌剌とした雰囲気の中に、凛とした女性の魅力も合わせ持つ岩崎。その2人がギャーギャーと口喧嘩をしているのだから、嫌でも注目を集めてしまう。


 「先輩方、落ち着いてください。みんな見てますよ」


 「見るなら入れ。入らないなら見るな」


 「せや、見せもんちゃうぞ。散れ散れ!」


 せっかく集まった新入生を散らしてどうする。逃げる新入生に先回りして、香月は両手を広げて行く手を阻んだ。


 「はは、ごめんね、うちの先輩が。現代アート部ってなんか難しそうだけど、別にアートとか理解できなくていいんだよ。私も1年やってたけど、なんも分からなかったし。仮入部でもいいから入ってみない?」


 これだけ香月が必死になるのには理由があった。


 部員を集めれば、褒美として絵のモデルをしてくれる。塩井とはそういう約束であり、実際にそれは果たされた。放課後の部室で、夕日を浴びた塩井に連日同じポーズを取らせ、ついに描きあげた1枚の絵。塩井の美しさをキャンバスに閉じ込めたその1枚は、自分でもお気に入りだった。


 仕上がった作品を満足げに眺めていた時、塩井がおもむろにシャツのボタンに手をかけた。一つ、もう一つ、ボタンが外され、中から黒の下着が覗く。香月の視線は、谷間に釘付けにさせられた。


 そして塩井は言ったのだ。


 「1枚で満足なのか?」


 どういう意味かと問う香月に、塩井は艶やかな笑みを浮かべながら答えた。


 「君が書きたいというのなら、お望みの姿で描かせてやる。裸婦でも構わんぞ。芸術なんだから、裸だろうが嫌らしいことはないんだから。もっと過激なことでも、香月の要望に応えてやる。その代わり…」


 塩井はシャツのボタンを閉じて立ち上がった。


 「来年また廃部にならないように、新入生をいっぱい集めてこい。そうだな、目標は10人。達成できれば、どんな姿の私でも描かせてやる」


 

 新入生の香月を見る目に恐怖が浮かび始めている。絶対に逃がすまい、と行く手を阻んでくる上級生。怖くて当然だろう。


 だが無理にでも入部させないといけない。現代アート部など心底どうでもいいが、塩井という最高のモデルを手に入れるため。あの美しさを、儚さを、全部キャンバスに閉じ込めたい。


 「あ、あの、現代アートってどんなのなんですか?」


 新入生の1人が、おずおずと手を挙げて尋ねてきた。よし、手ごたえありだ。


 「えっとね、例えば…」


 そういえば塩井の作品のほとんどを、写真に取って記録に残していなかった。何か一つくらいないかと画面をスクロールしていると、現れた。タバコを咥えたカエルの死骸が。


 「これとか」


 写真を見た新入生が、蜘蛛の子を散らすように逃げていった。どうやらこの先も苦労しそうだ。



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