廃部リミット⑩
晴れて存続が決定した現代アート部だが、勧誘にはことごとく失敗した。中庭のスペースを割り当てられたのは一日だけ。その一日も、上級生2人は喧嘩ばかりで、香月と橘では力不足だった。
不甲斐ない結果に終わって落ち込んでいると、塩井から招集がかかった。
「今から全員部室に来い。反省会と作戦会議を行う」
「すいません、今日は彼氏と約束が」
雄大とは2年になってクラスが別れてしまい、以前よりも学校で話す機会が減っていた。今日は2人でカフェに行き、そのあとショッピングする約束だ。
「それなら仕方ない」
「分かってくれましたか」
「デートはキャンセルしろ」
「うそでしょ」
「ああ、そう睨むな。私だって鬼じゃない。デートをキャンセルする気まずさは知っているからな。私が直接言ってやる。スマホを貸せ」
「あっ、ちょっと!」
塩井がスマホを無理やり取り上げ、メッセージアプリの画面に並ぶアイコンをスクロールし始めた。
「香月。案外男友達が多いんだな」
「返してください!」
「で、どれが彼氏だ。あ、この一番上のやつか。確か君の話に何度か出てきた、雄大とかいう男だな」
スマホを取り返そうとしたが、長い手を掲げられると届かない。おのれ、モデル体型め。
「もしもし?どうも、初めまして。現代アート部部長の塩井です。おたくの香月さんですが、本日の放課後デートは諸事情によりキャンセルとなりましたので。それでは」
要件だけ伝えて、塩井は一方的に通話を切った。
「雄大はなんか言ってましたか」
「誰ですか、としか」
「そうでしょうね!」
数日前から楽しみにしていた放課後デートは、塩井によってもみ消されてしまった。この女、本当に顔が良くなければ許されない性格をしている。
横でやり取りを聞いていた橘が、小さな体をもぞもぞさせながら近づいてきた。
「香月って彼氏いるんだ」
「あれ、言ってなかったっけ?一年の時に同じクラスだった、友田雄大」
「あ、知ってる。優しそうな人だよね」
「今日はせっかくデートの約束してたのに…」
「私はてっきり、香月は部長のことが好きなのかと」
それは間違いではないが、正解でもない。塩井のことは最高のモデルとして魅力的に感じている。恵まれた顔に抜群のスタイル。変人でなければ、さぞかし引く手あまただっただろう。だがそれ以外の感情はまるで抱いていない。勘違いされては困る。
「私が男でも、あの人のことは好きにならないかな」
「まあちょっと怖いもんね。いろんな意味で」
「そこの2人、早く来るんだ。有意義な作戦会議を始めるぞ」
「どうせろくなアイデアでえへんって。時間の無駄や、無駄」
塩井と岩崎は、いがみ合いながら部室へと向かう。その後ろを、香月たちはひょこひょこ付いていった。




