廃部リミット⑪
去年までは2人きりで使っていた部室も、4人になってから少し手狭に感じる。部屋の面積は他と変わらないはずだが、圧迫感があるのは塩井の作品群のせいだろう。絵画なら壁にかけておけば済む。しかし塩井の作るアートは、どれもこれも立体感がありすぎるので、邪魔で仕方がないのだ。
いらないものを処分しましょうと提案してみたこともあったが、呆気なく却下された。塩井にとって、いらないものなど一つもないらしい。
意味不明な作品群に囲まれながら、現代アート部の4人は三角座りでひざを突き合わせた。
「で、作戦会議ってなにするん?」
「無論、勧誘活動の失敗を取り返すアイデアを考える」
「失敗したのはお前のせいとちゃうんか」
「馬鹿を言うな、岩崎。君が大声でギャーギャー騒ぎ立てるから、新入生が怖がって逃げていったんじゃないのか。関西人は声がでかいから、常に怒ってるように聞こえるんだよ」
「アホか。お前がぶすっとした顔で座っとるからみんな逃げていくねん。勧誘するんやったら笑顔とテンションが大事やろ。自分、鏡見たことあるか?いつも怖い顔してんで」
上級生の2人は、互いに勧誘活動失敗の責任を押し付けあっている。容姿に恵まれた人間による、なんとも醜い争いだ。
「橘はどっちが悪いと思う?」
「どっちもどっち。しいて言うなら塩井部長」
「私もそうだと思う」
このまま放置しておけば、校門が閉まるまで言いあってそうなので、香月が間に割って入った。
「はいはい、先輩方。落ち着いてください。まだ部員が来ないって決定したわけじゃないんですから」
「香月。君にも責任があるぞ」
「へ?」
「新入生を追い回してただろう。なんなら君が一番怖がられてたぞ。逃げ惑うフレッシュな子たちの様子は、さながらホラー映画のようだった」
「確かに必死やったなあ。ちょっとウチもびびったわ」
仕方がないではないか。どんな姿でも描かせてやる、という塩井との約束のことばかりが頭にあったせいだ。人間として尊敬できる部分は皆無に等しいが、絵のモデルとしてはこの上なく魅力的な塩井。彼女を自由にできるのなら、恥も外聞も捨てて必死になれるというものだ。
「今のところ、新入生に与えたのは恐怖だけだ。もっと現代アート部に対して興味を持つきっかけを与えてやらないとな。さて、各々アイデアを出してくれ」
塩井が号令をかけたが、誰もすぐには手を挙げなかった。夕暮れ時の部室に、春になって起きだしてきた虫の声が聞こえてきた。




