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廃部リミット⑫

 「あ、じゃあ私いいですか」


 沈黙を破ったのは、現代アート部きっての引っ込み思案の橘だった。


 「おお、橘から意見が出るとはな。まったく期待してなかったが、これもまた成長。さあ、言ってみてくれ」


 「やる気なくすような事言ったんなや。ウチは橘のアイデア聞きたいな」


 期待していないと言われて橘は挙げた手を引っ込めかけたが、岩崎の助け舟のおかげでなんとか踏みとどまった。塩井よりも岩崎のほうが、部長に向いているのではないだろうか。


 「声をかけても新入生が捕まらないなら、罠にかけるというのはどうでしょう?」


 「ほう、興味深いな」


 ダメだ。話が良くない方向に進んでいきそうな気配がする。


 「塩井部長と出会ったとき、私のトリックアートに騙されてずっこけたじゃないですか。絵に描いた穴を、本物と思い込んですってんころりんと尻もちを」


 香月はその場に立ち会っていなかったが、ぜひ見てみたかった光景だ。人前ではクールぶっている塩井が、情けなく尻もちをつく無様な様子は、さぞかし滑稽だったに違いない。


 塩井も当時を思い出したのか、悔しそうに唇を噛み締めている。


 「あの時みたいに、トリックアートを使って新入生を罠にかければいいと思うんです」


 「また偽の落とし穴でも作るつもりか?私だから尻もちで済んだが、下手すればけが人が出かねないぞ。橘のトリックアートは危険だ。君の芸術のセンスは素晴らしいが、あまりにリスキーすぎる」


 「自分が恥ずかしい目にあわされたから反対してるだけやろ?ええやん、トリックアート。香月はどう思う?」


 「危険なやつじゃなければいいと思います。ほら、壁から動物が飛び出してるように見える3Dのアートとか、そういうのなら面白いし、話題にもなるんじゃないですか」


 「だ、ダメだ。いきなり学校の壁から動物飛び出して来たらびっくりするだろ」


 「ええよ橘。内容は自分に任せるから、好きなようにやってみてや」

 

 「え、でも塩井部長は反対って」


 「かまへんかまへん。まだ穴のこと根に持ってるだけやから。ほなら、それでいこか。期待してるで、橘!」


  「は、はい!」


 期待。その言葉が、いかに橘にとって励みになったのか、彼女の表情から見て取れた。一人でコツコツと、誰にも見られることなくトリックアートを作り続けてきた橘。そんな橘が岩崎から背中を押され、部員全員、正確には塩井を除く部員2人からの期待を背負っての大仕事を任されたのだ。一体どんな作品が仕上がるのか、香月もひそかにワクワクしていた。


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