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廃部リミット⑬

 翌日、現代アート部の部室の前にちょっとした人だかりができていた。集まっているのは、新入生だけではない。顔見知りの2年生や、なかには3年生らしき人までいる。


 「うわ、なにあれ。めっちゃ人おるやん」

 

 ちょうど部室目の廊下で、岩崎と鉢合わせた。


 「もしかして、橘のトリックアートですかね?」


 「それにしたってあんな人集まるか?」


 人ごみを縫って、部室に入っていく香月と岩崎。何に群がっているのかと首を伸ばして覗いてみたが、生徒たちの頭が邪魔で何も見えなかった。


 後ろ手で扉を閉め、先に部室に来ていた橘に尋ねる。

 

 「橘、あれなに?」


 「トリックアート」


 やはり橘の仕掛けたアートだったらしい。昨日の今日で実行するとは、行動が早い。


 「あ、安心していいよ。危ない罠とかじゃないから。それは塩井部長に止められてるし」


 「めっちゃみんな集まってるけど、何を描いたんや?」

 

 「お金です。一万円札」


 「お、お金?なんでそんなん描いたん」


 「えっ、お金落ちてたら気になりません?」


 「なるけども」


 「だから一万円札が落ちてるように見えるふうな、立体アートを描いたんです。部室の前に」


 あの人だかりは金に集まっているということか。どれだけ手を伸ばしても届かない、虚像の紙幣に。


 上級生下級生入り乱れた生徒たちが、相手を押しのけて金を拾おうとする様子が、なんとも哀れに思えてくる。高校生からすれば一万円は大金だ。先輩後輩関係なく、相手を蹴落としてでも金を手にしようと必死になるのは、分からなくもないが。


 「人間って、醜いねえ」


 「そうだね」


 「けどよく短時間で、リアルな3Dアートなんて描けたね。さすが橘。トリックアートの使い手」


 「お金を描くのは慣れてるから。暇つぶしでその辺に3Dのお札描いて、通行人を騙すのが趣味みたいなところあるし」


 「うわ、趣味悪すぎ」

 

 「それくらいしか楽しみがなくて」


 なんて悲しい女子高生なのだろうか。身長が平均を10センチ以上下回っているのは、普段の行いが悪いせいだろう。神様は見ている。橘にアートの才能を与える代わりに、身長を奪い去ったのだ。


 「へへ、集まってる集まってる」


 そろそろ札が偽物だと気づかれそうなものだが、みんなが一斉に手を伸ばすせいで腕が絡み合い、札に触れられない理由が、単に手が届いていないからだと思われているようだ。押し合いへし合いのその様子は、餌に群がる鯉を思わせた。


 問題は、塩井がこれを見てどう思うか、だ。


 間もなく部室の扉が開き、塩井が入ってきた。明らかに不機嫌な顔で。



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