一枚のコインで家が建つ②
「愚か者め。創作は材料を集めるところから既に始まってるんだ。楽して手に入れるよりも、苦労してかき集めた小銭のほうが価値があるだろう?」
銀行で両替すればいい、という香月の真っ当な指摘を認めたくないらしい。塩井は何やら独自の論理を展開し始めた。
「別のものに置き換えて考えてみろ。例えばキャンプに行った時、予め薪もテントも用意されていたらどうだ。お膳立てされすぎてて面白みがないだろ。自分で苦労しながらテントを立て、薪を割って焚火をする。それにこそ意味があるんじゃないのか。私はそう思う。ああ、強くそう思うな」
「分かりました、分かりましたから。小銭でアートを作るために募金活動をしようってわけですね」
「その通りだとも」
「ダメでしょ」
「なんで」
「募金って何のためにするか知ってます?」
「金を集めるためだ」
「そのお金、自由に使っていいと思ってんですか。あそこで募金してる子たち見てください。恵まれない国の子供たちに支援をするためにお金を集めてるんです。ちゃんとした目的があって、初めて募金っていうんですよ。先輩のそれ、ただの物乞いじゃないですか」
塩井がぽかんと口を開けた。こちらが間違ったことを言っているような空気が流れたが、明らかにおかしいのは塩井だ。集めるだけ集めてアートにするなど、そんな募金があっていいわけない。
「ダメなのか」
「なんで常識ないんですか。嫌になっちゃうな、この先輩」
容姿と引き換えに色々失った人間、それが塩井だ。現代アート部の部員たちは、自分も含めて本当によく付き合っていられるものだと思う。並大抵の精神の持ち主なら、塩井とのコミュニケーションを諦めて逃げ出すところだ。
「香月、今いくら持ってる」
「3000円くらいです。現金はあまり持ち歩かない主義なんで」
「それ小銭か?」
「全部お札です」
「小銭は?」
「1円玉が数枚と、5円玉が1枚だけですね」
結局この2枚が一番余ってしまう。自販機でも使えないし、財布を無駄に重たくするだけだ。
「そこの自販機で何か買って、札を崩してきてくれないか」
「嫌ですよ。今何も飲みたくないですもん」
手近なところから小銭を集めようというつもりか。あまり小銭は持ちたくないので、お断りだ。
「先輩こそ小銭は持ってないんですか」
「親が電子マネーにチャージしてくれてるからな。残額なんて気にしたことがない」
「やっぱり先輩も富裕層か…!」
塩井に岩崎。天は二物を与えずというか、顔のいい人たちのほうが家庭環境が恵まれているとは、なんとも不公平な世の中だ。




