新任教師の秘密㉔
現代アート部に顧問がついた。しかも2人。
「今日から顧問になってもらう、宇崎先生と前田先生だ。部員とは顔見知りだし今更挨拶はいらないと思うが、一応お願いしてもいいですか?」
塩井に紹介され、まずは宇崎がこほんと咳払いをした。
「えー、現代アート部のみなさん。その節は色々とお世話になりました。おかげで私たちは壁を乗り越え、本当の意味で恋人どうしになることができました。心から感謝を示すとともに、私たちでできる恩返しが何かを考えた結果、顧問をさせて頂く事となりました」
続いて前田がぺこりと頭を下げた。
「頼りない先生ですけど、どうぞよろしくお願いします」
「はい拍手。こら橘、なにぼけっとしてるんだ」
「いやいやいや、なんですかこれ。恋人?どういうこと?」
先生たちが一線を越えた日に何があったか、先に帰った塩井には話してある。何も知らないのは橘だけだ。
「恋愛には色んな形があるんだよ。橘はまだ世間を知らないな」
「そういう話じゃなくて。え、みんな知ってるんですか?知らないの私だけ?」
香月はこくりと頷いた。
「色々あってね」
「色々って…」
橘は香月と先生2人を交互に見て、諦めたように口をつぐんだ。
「顧問がつくということは、部活として一つ上のステップに進んだというわけだ。部としての魅力も高まり、勧誘活動も進められるだろう。みんな危機感を覚えていないが、もう5月も終わりだというのに相変わらず新入部員は来ていない。そろそろ本腰を入れないと去年の二の舞になるぞ。次に苦労するのは私じゃなくて、香月、橘、君たちなんだからな」
香月としては現代アート部を存続させるつもりがないので、このまま部員が集まらずに来年廃部になっても構わない。塩井がいないなら、部の存続意義はないからだ。
「特に生徒に人気の宇崎先生が顧問というのは心強い。きっと入部希望者が殺到するだろうさ。だが私は来るもの拒まずってわけじゃない。現代アート部にふさわしいかどうかは、厳しくテストさせてもらう」
「まだそんな事言ってるんですか」
「ところでお2人の関係ですが、もう公にしても?」
「だ、ダメですよ!現代アート部の皆さんと私たちだけの秘密です」
前田が慌てて両手の前で手を振った。
「あー…、なるほど」
「まさか塩井さん、誰かに話しました⁉」
「ええまあ、一人だけ」
「だ、誰ですか!まさか校長先生とか!」
「いえ、生徒会長です。顧問がつくという話をしに行った時に、ついでに」
よりによって深川が知ってしまった。今頃2人をモデルにした漫画の原稿に着手しているか、あるいは…。
勢いよく部室の扉が開いた。スケッチブックを手にした深川が、メガネの奥から鋭い目で宇崎と前田を捉えている。
「おや、噂をすれば深川じゃないか。何の用だ」
「少しばかりキャラクターのデティールを…、なるほど、首元にホクロ。分かりました、ありがとうございます。失礼します」
それだけ言って深川は帰っていった。
この時の出来事が、のちに世に出回ることとなる深川の作品に色濃い影響を与えることになった。




