新任教師の秘密㉒
静かな部室に響く吐息。唇と唇を重ね合わせる、湿り気のある音。どれもこれも、放課後の高校で聞いていい音ではない。
宇崎と前田がようやく体を離したのは、塩井が帰ってから20分後だった。思ったよりも長く、最初のうちは楽しんでいた岩崎もとうに飽きた様子だ。
「やっと終わったか。あと5分続いたらしばいてやめさせるとこやったわ」
始まった時は宇崎が押し倒す形だったが、いつの間にか逆転しており、前田が馬乗りになっていた。さすがに服を脱ぐような事はなかったが、着衣のままとはいえ業務時間内に、しかも生徒の前で肌を重ね合わせるなど教師として言語道断だ。だがそれを咎めるほど、香月もデリカシーのない人間ではない。満足そうな2人の間に割って入るのは憚られる。
「葵が秘密を話してくれたから、私も隠してたこと全部言うよ」
「えっ、恵ちゃんも何か隠し事があったの?」
「うん。実は…」
宇崎は覚悟を決めた顔で、前田を見上げた。中性的でカッコいいと人気の顔立ちの良さを、そんな場面で無駄に使わないで欲しい。
「ストーキングしてたんだ。葵を」
うわ、言った。ついに言いやがった。香月は天を仰いだ。
「へ…?」
前田がぽかんと口を開け、言葉を失った。恋人がストーカーで、しかもその対象が自分。驚くのも無理はない。驚くというかドン引きだろう。
「やばいよね、私。昨日も葵のこと、家まで尾けてたんだ」
コンビニ前の灰皿に前田が捨てた吸い殻を一瞬拾おうとしたこと。前田が棚に戻したおにぎりをわざわざ購入していたこと。思い返せばどの行動も異常だ。
「キモイならキモイって言ってくれ。私が変態なのが悪いんだから、何を言われても受け入れる」
一応自覚はあるようだ。
「宇崎先生、ずるない?さっき前田先生が本性見せたタイミングで、自分も秘密ばらしとけばよかったのにさあ。やることやってから暴露するとか、なんかモヤモヤするわ」
「確かにあの時に言っておけば、あおいこって感じで済みましたよね。今言うから変な感じになっちゃってますし」
秘密を話せば前田に突き放されるリスクも考慮して、最後になるかもしれないまぐわいを先に楽しんだのだろう。実にずるい考えだ。
「そっか、ストーキング…。うん、そうなんだ」
前田は恋人から告げられた事実を確かめるように、何度もストーキングという言葉を呟いている。
「葵…、ごめん」
「嬉しい」
「え?」
「恵ちゃん、私嬉しいよ。そんなに私のこと、愛してくれてたなんて!」
前田が宇崎の手を取り、潤んだ瞳で見つめた。




