新任教師の秘密㉑
「恵ちゃん、私のこと嫌いになった?」
そう問いかける前田は、まるで捨てられた子犬のようにいじらしい。宇崎が惚れこむのも分かる気がする。5歳以上年下の香月から見ても思わず抱きしめたくなるような、母性をくすぐる何かが前田にはあった。
「バカ、嫌いになんてなるわけないだろ!」
宇崎が前田を抱きしめた。前田の背骨が折れてしまわないか心配になるほど、強く抱いている。
「どんな葵でも愛す。部屋が汚いからなんだ。煙草吸うからなんだ。私は葵を見た目だけで好きになったわけじゃない。全部ひっくるめて、前田葵という一人の人間を愛してる」
「恵ちゃん…」
「先生方、ここ部室。お熱いのは結構ですけど、出来ればよそでやってもらえると」
香月の声は2人には届いていない。抱擁だけならまだいいが、そのままキスまでしそうな勢いだ。深川がこの場にいなくて助かった。もしいれば、確実に漫画のネタにされてしまう。
「私たち邪魔ですかね」
「ええやん、せっかくやし見せてもらおうや。なかなかお目にかかれるもんちゃうで?先生2人のイチャイチャなんか」
「別に見たくないです」
とは言いつつも、目の前でやられると気になってしまう。他の生徒の前では見せない乱れた姿。特に前田は普段とのギャップもあって、いけないものを見ている気分にさせられる。
宇崎が前田を押し倒した瞬間、髪を乾かし終えた塩井が戻ってきた。
「少し席を外している間に何が!」
「かいつまんで説明するとやな、ストーカー女とエロ女が一歩先の関係に進んだんや」
「誰と誰だって?」
この場にいる人間の中で、塩井だけがまったく事情を把握していない。宇崎がストーキングをしていたことも、塩井は知らなかった。
「まったく、なんなんだ今日は。パンツで髪を拭かされるわ、先生たちが部室でくんずほぐれつ。ああもう疲れた。私は帰る」
「この状況でよく帰れますね。先生たちがあんなことになってるのに」
「猫のじゃれ合いみたいなもんだろ。施錠は頼んだぞ」
塩井は本当に帰ってしまった。残された香月と岩崎は、先生たちの熱い時間が終わるのを黙って待つことにした。




