新任教師の秘密⑳
宇崎の視線は前田の胸元に釘付けになっている。赤に続いて黒と来たものだから、恋人に抱くイメージの崩壊に宇崎の精神が耐えられなくなりそうだ。
「白じゃない」
「ごめん、恵ちゃん、ごめんね」
「あぁぁぁぁぁぁ…」
宇崎が言葉にならないうめき声を発した。
「葵。他に私にどんな嘘をついてる⁉」
ブラウスを着直している最中の前田を、宇崎が壁に追い詰めた。
「やっ…ちょっと、恵ちゃん」
「煙草と下着。他には!」
まるで容疑者を詰問する刑事のような迫力。この刑事はかつ丼を出してくれるほど温情は無さそうだ。
「お、お部屋…」
「部屋がどうしたんだよ」
「恵ちゃん、前に言ってくれたでしょ。葵は綺麗好きだから、部屋にゴミ一つ落ちて無さそうって。だから私、恵ちゃんが来る前はすごい頑張って掃除するの。匂いなんてよくわからないけど、高そうなアロマも焚いてる。髪の毛一本落ちてないように、必死に掃除して準備してるんだよ。でも恵ちゃんが来ない日は、こんな感じ」
前田がスマホ画面に表示させたのは自室の写真だった。昨晩に深川と入口まで行った時は、綺麗なアパートだと思った。住んでいる人間もきっと丁寧な生活を送っている人間ばかりだと思わせられる、そんな物件だ。
だが前田の部屋は、とんでもなく荒れていた。
玄関には脱ぎ捨てられた靴。仕事用のパンプスが、プライベート用らしきスニーカーの上に乗っかっている。どんな脱ぎ方をすればそうなるのだろうか。
リビングに続く廊下には、ゴミの日に捨て損ねたであろう可燃ごみの袋が放置されている。それも一個や二個ではない。何週間分か貯まっている。冬場ならまだしも、今は5月の下旬。そろそろ本格的に暑くなってくる頃だ。虫も湧いてくる季節。写真では分からないが、コバエが飛んでいそうな部屋だ。申し訳程度のアロマが靴箱の上に置いてあるが、それは宇崎が来た時用のカモフラージュ。むしろこれだけゴミが貯まっている空間でアロマを焚くと、匂いが混ざって気持ち悪くなりそうだ。
「おっ…おぉ…」
宇崎が嗚咽を漏らし始めた。
前田が画面をスワイプして次の写真を表示させると、宇崎の表情はさらに険しくなった。
リビングには郵便物の山。捨てればいいのに、大量のチラシがあちこちに散乱していた。段ボールは部屋の隅に積まれており、そこにもまた可燃ごみが置かれていた。
白い台所は、飛び散った調味料やこびりついた食材のカスで変色している。こんなところで作られる料理は、衛生的に問題がありそうだ。
「次は恵ちゃんが来た時に寝てる寝室…」
「もういい、やめてくれ!」
宇崎が絶叫して、顔を両手で覆った。
「先生、泣いてる?」
「泣いてるわ、あれ」
「ショックなんでしょうね」
「理想の女なんかおらんかったっちゅうことやな」




