新任教師の秘密⑱
「話せば長くなるなら、手短に話してくれ」
事情を何も知らない塩井が口を挟んできた。興味のない話題はとっとと流したいのだろう。
そう言われても言葉を選ぶのが難しい。あなたの同僚はストーカーです、とでも言えばいいのか。いいや、ダメだ。2人の関係にヒビを入れる権利は香月にはない。明らかに宇崎に落ち度があるにしてもだ。
「えーと、そのですね、昨日前田先生の家の近くにいたのは偶然でして。通りかかった時に、ほんとタイミング良く下着が落ちてきたんです。嘘じゃないです、信じてください」
必死に弁明すればするほど怪しいが、前田はあまり疑っていない様子だ。
「そ、そうだったんですか。なんかすみません。汚いものを拾わせてしまって」
「いえ、本来ならすぐに返しにいくべきでした。私が放課後まで持ってたせいで、こんなぐしょぐしょに」
「私は悪くないからな。岩崎がふざけて渡してきたのがいけない」
「先輩は早く髪乾かしてきてください。全然拭けてないですよ」
下着一枚で吸収できる水分量ではなく、塩井はまだ風呂上りのように濡れていた。
「これ、洗って返しますね」
「そんな、いいですよ。落としたのは私なんですし。それに女の子とはいえ、生徒に下着を預けてるのはちょっと、恥ずかしいというか…」
「あ、そうですよね。じゃあお返ししますということで」
すっかり重たくなった下着を持ち主に返却しようとしたその時、現れたのは例の変態だった。
「な、なんだ香月さん、そのいやらしいパンティは!」
部室の前を通りかかった宇崎が、今まさに前田に手渡されようとしていた下着を見て叫んだ。
「なかなか大胆だな、香月さん。私が高校生の頃はそんなデザインの履こうとも思わなかったのに」
「誤解です!これは前田先生の…」
「えっ、葵の?なんで香月さんが持ってるんだ」
しまった。つい口が滑った。昨日の夜、宇崎を尾行していた事がばれてしまう。
「それに葵はこんなセクシーな下着は持ってない。こんな清楚で可愛い子が、バーレスクみたいなのを履くわけないだろ。何かの間違いだ。なあ、葵?」
生徒の前で名前呼びをしない、というルールはどこへやら。気が動転している宇崎は、岩崎もいる前で堂々と葵という名前を口にしていた。岩崎にはつい先ほど事情を話したので、特に驚いた様子はないが。
「えっとね、恵ちゃん、違うの。これ、私の」
前田も宇崎のことを下の名前で呼んだ。宇崎恵というフルネームを、香月はこの時初めて知った。過去に一度くらい聞いたことがあるかもしれないが、まったく覚えていない。




