新任教師の秘密⑮
前田が吸い殻を灰皿に落とした。吸っている間の前田は、普段生徒の前では見せることのない妙に艶っぽい表情だった。
「…なんかイメージ変わりましたね」
「まさか前田先生が愛煙家だとは。うん、嫌いじゃないですよ。清楚系の喫煙者。これは新しいネタになりそうです」
間もなくして店を出た宇崎が、灰皿の前に立ち尽くした。先ほどまで前田の口が触れていた吸い殻を、じっと見つめている。
「まさか先生、吸い殻を…?さすがにそれは人としてやばいですよ」
宇崎の脳裏には一瞬その考えがよぎったのだろう。灰皿に手を伸ばしかけたが、大人として、人間としての理性が勝ったようで、唇を噛みしめながら手を引っ込めていた。
「宇崎先生がまたストーキングを再開しましたよ。追いましょう、香月さん」
「あの人、もういい加減にしろよ。全然反省してないじゃん!」
前田を追って宇崎がたどり着いたのは、築年数の浅そうなアパートだった。玄関はオートロックで、前田がエントランスの向こうに消えたあと、ガチャンとロックがかかる音がした。
「ここが前田先生の家みたいですね」
「教師は労働量のわりに薄給と聞きましたが、結構いいところに住んでるじゃないですか」
さて、恋人の家の前まで来た宇崎がどんな行動に出るのか。香月と深川は、曲がり角に身を潜めて宇崎を観察する。
「はあ…」
宇崎は溜息をつき、夜空を見上げた。いや、見ているのは空ではない。彼女の視線は、ある一点に集中していた。
前田がアパートに入って間もなく、それまで暗かった一室に明かりが灯った。ベランダに干してある洗濯物を取り込むため、部屋の中から人が出てきた。それが前田だった。
「部屋の場所まで把握してるんですね。ストーキングしてたらそれくらい分かるか」
香月の隣で、カシャとシャッター音がした。
「会長、なに撮ってるんですか」
「証拠写真ですよ。宇崎先生が前田先生の家の前まで来ていたという、確固たる証拠です」
「それを使ってなにかするつもりなんですか」
「いえ、そういうわけでは…。おや、なにか落ちて来てません?」
「え?」
前田の部屋のベランダから、何かがこちらへ向かってひらひらと舞い落ちてくる。地面に落ちる前に、香月はそれをキャッチした。
「…会長、これって」
「赤ですね」
「いえ、色ではなく」
「ああ失礼。下着ですね。前田先生の」
香月と深川は顔を見合わせた。




