新任教師の秘密⑬
宇崎が校門を出たのは18時30分。梅雨が近づき日が長くなってきたとはいえ、さすがに空は暗くなっていた。それでも部員集めに奔走していた春先に比べれば、外はまだ明るいほうだ。宇崎に気づかれないよう、気を付けて尾行しなくては。
放課後に深川と2人きりで、未だストーカー疑惑がかけられている宇崎を追跡することになった。昨日香月が注意した時は反省した顔をしていたが、果たして。
「ちょ、会長、狭いんですけど。もう少しそっちにずれてください」
「これ以上体がはみ出たら、宇崎先生に見つかってしまうかもしれないじゃないですか」
自販機の陰に身をひそめながら、宇崎の背中を目で追う2人。街中は案外隠れられる場所が少なかった。宇崎が歩いているのが大通りなので、後ろを振り返れば尾行に気づかれてしまうかもしれない。
実際に何度か宇崎が振り返ったが、その時は咄嗟に背中を向けることで事なきを得た。
「このまま先生が家に帰ってくれればいいんですけど」
「どうもその可能性は低いようですよ。先ほどから先生の動きが不自然です。周りをキョロキョロしたり、急に歩くペースを遅くしたり。まるで誰かを付けているような」
「まさか…」
宇崎が電柱の影に身を隠した。
その視線の先には、やはり前田がいた。
「あの人、またストーキングしてる!」
「香月さんに見せた反省の意は、嘘のようですね」
前田は自分の後ろに宇崎が、そしてそのさらに後ろに香月と深川が潜んでいることなどつゆ知らず、コンビニに入っていった。
少し間を空けて、宇崎が入店。そして香月たちも入店した。
前田はおにぎりのコーナーに立ち寄り、しばらく陳列棚とにらめっこしたあと、シーチキンを手に取った。しかし直後に心変わりしたのか、シーチキンを棚に戻し、昆布のおにぎりを持ってレジへ向かった。
「あれが夜食ですかね」
「それにしては少ないような気がします。いくら前田先生が細身で小食とはいえ、おにぎり一個では到底カロリーが足りないでしょう」
「あ、宇崎先生がおにぎりコーナーに。…なにやってるんですか、あの人」
宇崎が見せた行動に、香月は頬をひきつらせた。
「会長、今の見ました?」
「前田先生が手に取って戻したシーチキンを取りましたね」
まるで包装に残った前田の体温を確かめるように、うっとりとした表情でおにぎりを手で包んでいる。
「さすがにドン引きなんですけど」
「おにぎり一つでここまで…。宇崎先生、恐るべしですね」
深川はまた何かメモを取っている。
前田がレジにおにぎりを置き、財布を取り出しながら言った。
「125番を一つ」




