新任教師の秘密⑪
「会長、これってまさか」
「分かりますか香月さん。この看板を見ただけでピンと来るとは、あなたも中々ですね」
しまった、罠か。
「いえ、違いますよ!私はこういう施設、利用したことないですから!」
「休憩1時間2000円は良心的な価格だと思いませんか?駅近くに出来たところなんて、倍の値段はしますから。去年のクリスマスシーズンは行列がすごかったですね。よくもまあ、長時間待てるものですよ」
なぜ深川はラブホテルの価格帯に詳しいのだろう。堅物というイメージだったころの生徒会長像は、もはや欠片も残っていなかった。
「この写真、いつ撮ったんですか」
宇崎と前田が並んでラブホテルに入っていく場面は、しっかり高画質で激写されていた。宇崎が前田の腰に手をまわしており、前田は恥ずかしそうに俯いている。初々しさを感じる表情から、前田の緊張感が写真越しに伝わってくる。
「先月ですね。先生方が赴任されてから間もなくの夜です。あの日、私はネタ探しのために夜の街を歩いていたんですよ。そしたら偶然、宇崎先生と前田先生が」
「ネタ探しっていうと、例のいやらしい漫画の?」
「エロ漫画は想像で描いてはいけないんですよ。中にはイマジネーションだけで作品を作り上げている漫画家さんもいるでしょうが、私が自分の作品に求めるのは、より湿度の高いリアルさ。そのためには自分の足でネタを集めないと」
情報は足で稼ぐ、という刑事みたいな事を言っている。そんな理由で高校生が夜の、しかも風俗店が立ち並ぶエリアを歩くなど危険極まりない。この生徒会長、いつかこっぴどい目に遭いかねない気がする。
「ハマってるんですよね。ラブホテルに入っていく瞬間のカップルが出てくるまで待って、入るときと出てきたときの顔のギャップを確かめるの」
「え、なにその趣味、きも」
「きもいとはなんですか。人間観察の一種ですよ。観察力を高めることは漫画の質を高めることにも繋がるんです」
趣味は人間観察です、という時点で十分に気持ちが悪いが、そのうえ深川がやっていることは不愉快さに拍車をかけている。生徒会長は一度弾劾されるべきだ。
「そうしてカップルを観察していたところ、先生方が現れたんです。どこかで見た顔だな、と思って、宇崎先生と前田先生だと気づいたときには心臓が跳ねましたね。これはすごい特ダネだと。光の速さでシャッターを切りましたよ」
「それがこの写真ってわけですか」
「てっきり綺麗なお付き合いをしてるものだと思ってたんですが、まさかストーカーとはね。ここまで知ってるんですから、私には話してもいいでしょう。さあ香月さん、宇崎先生と何があったんですか?」
逃げようとした香月の腕を掴み、深川は自身のテリトリーである生徒会室へと引っ張っていった。
周りの生徒、特に一年生からは、あの生徒会長と親しくしているなんて、という憧憬の視線を向けられたが、とんでもない。誰でもいいから助けてくれ。




