新任教師の秘密⑨
登校中に朝の公園を通ると、生乾きの吐しゃ物がぶちまけられている場面に遭遇する。一体どこの不届きものが、と思っていたが、犯人はこういう人間なのだろう。
「ぐっ…うぇ…」
「うわ、汚ぁ…」
ファミレスで酩酊した宇崎が、体をくの字に折り曲げて嘔吐した。ビールの黄色が混ざった妙にカラフルなゲロだ。
「ちょっとやめてくださいよ。先生のこんな姿見たくありませんでした」
「私だって生徒の前で吐きたくなかったよ…」
「お水買ってきますから、しばらく大人しくしててください」
公園にある自販機は大手メーカーのものではなく、あまり見かけることのない飲料ばかりが並ぶ謎のラインナップだった。しかも水がない。あるのは人工甘味料マシマシの炭酸や、微糖のコーヒー。お茶にしても、麦茶ではなくジャスミン茶など、どれをとってもメジャーな商品から外れている。
「お待たせしました」
「ありがとう…うっ⁉なにこれ!」
「なんかシトラス系の炭酸みたいです」
「すごいケミカルな味がする。どこのメーカー?」
「聞いたことないとこのやつですね。飲みたくないなら、ゲロの掃除に使ってください」
宇崎はボトルの半分ほどを飲み、残りを吐しゃ物にかけて、気持ち程度の掃除をした。
「はあ、なんとか落ち着いた。ごめんね香月さん、迷惑かけちゃって」
「ほんとですよ。ストーキングしてるだけでも厄介なのに」
「この事、絶対に学校には言わないでね。お願い、お金ならいくらでも出す。口止め料にいくら欲しい?」
「いりませんって。でもストーキングはやめたほうがいいですよ。前田先生が知ったら悲しむと思いますし」
悲しむだけで済めばいいが、下手すれば通報されかねない。
「そうだよね、こんなことダメだって分かってるんだ。分かってるんだけど」
この言い方はまだやるつもりだ。
「くれぐれも逮捕されないよう気を付けて下さいね。私は買い物して帰りますけど、絶対に、いいですか、絶対にストーキング再開しないこと。約束してください」
「うん、分かった。約束する」
「ほんとですね?」
宇崎はこくこくと頷いた。これではどっちが生徒か分からない。
朝陽からの催促メッセージが立て続けに入ってきたので、そろそろ食材を買って帰らないと晩御飯が遅くなってしまう。
香月は変態を一人公園に残して、スーパーへ向かった。




