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新任教師の秘密⑦

 「付き合ってるかって?ああ、そりゃもちろん葵…前田先生とは正式にお付き合いをしてる」


 「葵っていうんですか、前田先生の下の名前」


 担任でもない教師のフルネームなど、一度聞いてもすぐに忘れてしまう。普段は互いに、前田先生、宇崎先生と呼び合っているが、プライベートでは下の名前で呼んでいるらしい。


 恋人関係ならそのほうが自然だ。ついポロッと生徒の前で名前呼びしてしまうミスさえ犯さなければ、ばれる可能性は低いだろう。


 「告白はどっちから?」


 「当然私からさ。私はほら、こんな見た目だし、昔から男の子っぽいって言われることも多かったんだよ。女の子から好意を向けられたりもしたし、同性どうしの恋愛には慣れてた。いや別に男が嫌いとかじゃないよ?」


 いわゆるバイセクシャルというやつか。


 「どっちもいけるクチってわけですね」


 「言い方があれだけど、まあそんなとこ。でも前田先生にそっちの気はなかった。普通に男しか恋愛対象として見てなくて、女の私から好意を向けられて最初はびっくりしてたんだ。一回目は断られたよ。友達としてしか見れないって」


 「何回アタックしたんですか?」

 

 「3回。私の本気が伝わったんだと思う。毎日お弁当作っていったり、仕事手伝うフリして一緒にいる時間をさり気なく伸ばしていった。人間の心ってさ、案外変わるもんなんだよね。そうやって親密度を上げていった結果、3度目の告白で前田先生もオッケーしてくれた。もうあの瞬間の幸せったらないね。今思い出してもよだれが出そう」


 喋れば喋るほどキモさが露呈してくるな、と香月は思ったが黙っておいた。相手は仮にも教師だ。


 「めでたくお付き合いしたわけですよね。じゃあどうして恋人である前田先生のストーキングを?」


 「それなんだけど…」


 宇崎は空になったビールジョッキの縁を指でなぞりながら、言葉を探している。


 「なんて言ったらいいかな。香月さんは彼氏いるんだっけ」

 

 「はい、同じ学年にいますけど」


 「彼氏との間に隠し事ってない?」

 

 「ないって事はないですよ。でもお互いに後ろめたいことは無しにしようって約束してるんで、浮気とかやばい隠し事とかはNGです」


 その約束は今のところ守られている。雄大が浮気するとも思えないし、香月自身も他の男に気を取られることはない。話していないことといえば、塩井との約束くらいだ。あれはちょっと雄大には知られたくない。どんな姿でも見せてやる、と言った塩井の声と表情は今でも脳裏に焼きついており、たまに夢にさえ見る。だが断じて恋ではない。それは自信を持って言える。


 「私も前田先生の浮気を疑ってるとかじゃないよ。そんなのするわけないもん」


 「ますますストーキングしてる理由が分からないんですが」


 「なんかさあ、秘密にするまでのレベルじゃないけど、なんとなく恋人には言ってない程度のプライベートな事って、気にならない?」


 「んー、例えば?」


 「普段使ってる店、よく買う飲み物、ちょっとコンビニ行くとき用のダル着姿とかさ。そういう、隠してないけど私に見せない私生活っていうの?それを覗きたい。分かる?分かってくれる?」


 変態教師がヒートアップしてきた。早めに退散しないと。


 「すいません、分からないです」


 「なんでだよ!恋人の前では一番かわいい自分でいようとしてるからこそ、そうじゃないときの前田先生をこっそり見てみたい。だからストーキングしてんの!」


 こんなのが教師になれるなんて、日本の教育現場は大丈夫なのだろうか。教師のなり手が不足しているとニュースで見たが、だからってストーカーまで雇わなくてもいいじゃないか。

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