新任教師の秘密⑥
ストーカーと2人きりになるのは気が引けたが、人通りの多い場所で話していて他の生徒に見つかるとまずい。香月は仕方なく場所を変えようと提案した。
そうして香月と宇崎は、晩御飯時で混み合うファミレスに滑り込んだ。スーパーに行く途中だったが、この変態をどうにかしないとおちおち買い物もできない。朝陽には帰りが遅れる旨をメッセージで入れておき、改めて宇崎と向き合った。
「で、宇崎先生。同僚の前田先生をストーキングしてたわけを教えてくださいよ」
「その前になにか頼まない?好きなの食べていいよ。お金は気にしないで」
「口止め料ですか」
「まあそんなとこ」
「晩御飯前なので、ドリンクバーだけでいいです」
「じゃあ私はビール頼んじゃお」
香月の一家に酒飲みがいないので知らなかったが、ファミレスにもアルコールメニューがあるらしい。今まで酒を飲んでいる客を偶然見てこなかっただけか。しかしこれから罪を告白するというのにビールとは、ずいぶん肝が据わっている。あるいは酔わないと話せないような内容か。
口に泡をつけた宇崎は、美味そうに声を漏らした。教師が酒を飲んでいる姿はなんだか新鮮だ。先生という存在は、他の大人とは違う世界の生き物のように思っていたが、こうして見ると何も変わらない。
香月はドリンクバーから持ってきたコーヒーを飲み、いよいよ尋問がスタートした。
「ええと、前田先生をストーキングしてた理由だよね。うん、正直に言う。好きなの。私。前田先生のこと」
昼間に橘としていた噂が今、本人の口から語られた言葉によって真実となった。
「好きって…、それは同僚や友達としてではなく…」
「うん。恋愛的な意味」
「あー…マジっすか。いや、なんとなくそんな気はしてたんですよ。この前の試合の時だって、事あるごとにイチャイチャしてましたし」
「げっ、ばれてた?」
「はい。思い切りばれてました。出塁した宇崎先生とベンチにいる前田先生との間に、なんか甘い空気が流れてましたし」
宇崎は気まずそうにはにかみながら、ビールを呷った。
「だって可愛いじゃん?前田先生」
「ひ弱すぎて、年上なのに守ってあげないといけない気にはなりますね」
「それがいいんだよ。私も最初は、なんていうの、母性?庇護欲?みたいなものから始まったんだけど、どんどん前田先生のこと好きになっちゃってさ」
アンニュイな表情で窓の外の夜景を見つめる宇崎。ビールで少し赤らんだ顔と、外から差し込む街灯の灯りに照らされて、普段よりも少し色っぽい。しかしこいつはストーカーだ。大人の魅力を醸し出しているが、立派な変態。問い詰めるべきことはまだたくさんある。
「付き合ってるんですか?」
待ってましたとばかりに宇崎の顔が輝いた。




