新任教師の秘密⑤
「なんで私の名前を!まさか不審者じゃなくてスパイの類⁉やっぱり通報しなきゃ」
「待って待って、私!私だから!」
慌ててマスクとメガネを取った不審者。その下から現れた顔には見覚えがあった。というか、つい数時間前に見たばっかりだ。
「う、宇崎先生?」
「驚かせてごめん。こんな格好だもん、そりゃびっくりするよね」
学校での宇崎は快活で接しやすく、新任ながらも生徒からの信頼も厚い。今日の昼休みのように、失職のリスクを冒してでも同僚を守る勇気もある。だからこそ不審者みたいな格好をしてコソコソしている姿は、あまりにも普段の宇崎とかけ離れていた。
「電柱の陰に隠れてコソコソしてましたけど、あれなんなんですか?」
「…見なかったことにしてくれないかな」
「いや無理ですよ。場合によってはマジで通報しないといけないかもですし」
「先生を信じてよ!」
「信じたいですよ。宇崎先生が怪しい者じゃないって。だからちゃんと説明してください」
宇崎は唇を噛んで俯いた。なんだかこっちが悪者みたいじゃないか。被害者面をするのはやめてもらいたい。
「…誰にも言わない?」
「宇崎先生の潔白が証明できれば」
「分かった、白状するよ」
宇崎は深く息を吸って、覚悟を決めたまっすぐな目で香月を見た。そして一言。
「前田先生をストーキングしてた」
「もしもし警察ですか。事件です。ええ、現行犯がここにいます。逮捕してください」
「待って、話を聞いて!」
宇崎は持ち前の運動神経で素早く香月からスマホを奪い取った。
「嘘です、通報してませんよ。でも聞き捨てなりませんね。なんですかストーキングって」
「それはその、前田先生を後ろからつけ回してたってこと。学校を出てから自宅に帰るまで、ずっと」
「ストーキングする意味が分からないんですけど。普通ストーカーって恋愛関係がこじれた相手とか、一方的に相手をつけ狙う変態とか、そういう人がやるものでしょ。お二人は仲いいじゃないですか」
「うん。そうなんだけどさ…」
まずい。香月の中の危険を察知するセンサーが動いた。
変態の気配だ。現代アート部に入部して以来、四条や深川といった変態たちと関わりを持つようになった。そのせいで、目の前の相手が常人か変態かをなんとなく察するようになってしまった。部活内でいえば、岩崎と橘は常人寄り。塩井もある意味では変態だ。
そして香月のセンサーは、宇崎に対して激しく反応した。
逃げよう。これ以上関わってはいけない。
「すいません、お邪魔しました。あとはお好きにストーキング楽しんでください」
「違うんだって!話を聞いて、香月さん!」
香月の逃げ足よりも宇崎の追いかけるスピードは圧倒的に速く、すぐに回り込まれてしまった。どうして自分の周りの変態は妙に身体能力が高いやつらが多いのだろう。




