新任教師の秘密④
施錠当番だったせいで、帰りがすっかり遅くなってしまった。今日は両親ともに帰宅が遅くおそらく深夜になるとのことで、弟の朝陽と2人の夕食になる。こんなことが週に1回はあるので慣れたものだが、親が置いて行ってくれた金で夕食の買い出しに行かないといけないのが面倒だ。
「コンビニ弁当でいい?」
「やだ」
「食べ盛りの男子が生意気言ってんじゃないよ。脂っこくてカロリー高いのが好きなんでしょ。弁当が嫌ならカップ麺は?」
「肉が食いたい。ちゃんと料理したやつ」
「贅沢な…。それ作るの私なんだけど?」
朝陽と2人の時は、毎回献立で揉めてしまう。とりあえずインスタント食品かコンビニ弁当を提案してみるが、一度も採用されたことはない。
ここでうだうだ言っていても朝陽は折れてくれないので、香月は仕方なく夜の街へ繰り出した。コンビニならすぐ近くにあるのに、スーパーまで買出しとなると少し歩かないといけない。
「まったく、うるさい弟め。中学生の男子なんて揚げ物食わしとけばいいんじゃないの?」
ぶつぶつ言いながらスーパーに向かっていると、香月の視界に怪しい人物が映りこんできた。
黒いスウェット姿の女性が、電柱に身を隠している。といっても細い電柱で隠れる部分は限られているが、本人は隠れているつもりらしい。マスクにメガネ。絵に描いたような不審者だ。
どうしよう、通報したほうがいいだろうか。
香月はいつでも110番にかけられるように、11までを入力した状態で不審者に近づいた。見た目が怪しすぎるだけで、まだ何か悪事を働く場面を見たわけじゃない。もしかしたら、ただファッションが不審者すぎるだけの一般市民の可能性もある。
少し距離を詰めると、マスクの下から漏れる荒い息の音が聞こえてきた。はあはあ、と興奮を抑えきれない様子。やはり不審者で間違いない。
スマホ画面の0に指を伸ばしかけた時、不審者がこちらを振り向いた。
「ひっ!」
思わず悲鳴を上げた香月は勢いで最後の0を押してしまい、警察にダイヤルが繋がった。
事件か事故か。そう聞かれる前に急いで通話を切った。
「か、香月さん…?」
なぜか不審者は香月の名前を知っていた。怖い。こんな知り合いはいないはずなのに。




