新任教師の秘密③
上司によるパワハラから前田を救い出した宇崎。新任の立場でベテランに歯向かった彼女にどんな処罰が下されるのか。もしかしたら来月には宇崎がこの学校から姿を消しているかもしれない。せっかく試合を通じて打ち解けたのに、と香月は少し寂しさを覚えた。
宇崎は持っていた弁当の一つを前田に差し出している。なぜ2つも、と思っていたが、片方は前田の分だったらしい。可愛らしい弁当箱に入った手作りのおかずが、3階にある部室の窓からでもギリギリ見える。綺麗に巻かれた卵焼きに、アスパラのベーコン巻き。教師は忙しい仕事だと聞いたが、よくもあれだけ手の込んだ弁当が作れるものだ。
「あれ、宇崎先生が作ってるんだよね。すごいな。私あんなの絶対作れないわ。橘は料理得意だっけ」
「苦手じゃないけど、好きではないしやりたくない。ご飯は作ってもらうのが一番」
「うわ、絶対いい奥さんにならないタイプだ」
「別に料理できなくても結婚できるし。むしろ私より、案外塩井部長みたいなタイプのほうが売れ残りそうだけどね」
「あー、確かに。顔とスタイルは抜群だけど、あれを嫁にもらう男はまともじゃないよ」
こほん、と塩井が咳払いをした。
「なんて可愛くない後輩たちなんだ。だがまあ、結婚は考えてないな。私は私だけの世界を生きる。そこに恋人の存在は必要ないね」
塩井が恋人と一緒にいる姿を想像できない。もし彼氏ができたら塩井は変わるのだろうか。訳の分からないアートのことなど忘れて、恋に溺れてしまうのだろうか。いや、そっちのほうが健全だ。むしろそうなるべきである。
「それにしてもあの2人、仲いいよね。同僚で同期だしそれは分かるんだけど、距離感変じゃない?」
「毎日弁当作ってくるのは流石に…。宇崎先生ってもしかして、前田先生と、つ、付き合ってるとか」
付き合ってる、と口にした橘は、自分で言っておいて顔を赤らめた。このピュアさ、深川と四条にも少しは見習ってもらいたい。
「でも女同士だよ?」
「さ、最近はそういうのオープンな世の中だし」
「先生たちが恋人関係かあ。まあ宇崎先生がグイグイいくタイプで、前田先生が引っ込み思案だしね。相性は悪くないと思うよ」
実際に宇崎と前田が恋愛関係にあるのかは定かではないが、距離感が異常に近いのは否めない。今だって、パワハラから解放された前田が涙ぐみながら弁当を食べているのを、宇崎が優しく見守っている。そして昼休みの校庭で、白昼堂々と前田の頭を胸に抱き寄せた。
「あー、確定だ。付き合ってるね」
「もうちょっと隅っこのほうでやればいいのに…」
香月と橘の実況を聞いていた塩井は、退屈そうにあくびをした。謎のアートには並々ならぬ情熱を注ぐくせに、他人の色恋沙汰には興味がないらしい。
「私はもう教室に戻る。また放課後にな」
そう言い残して塩井は去っていった。




