新任教師の秘密②
宇崎は不安そうに眉尻を下げている。ショッピングモールで親とはぐれて迷子になった子供みたいだ。
「前田先生ですか?ここには来てませんよ」
「そっかあ。どこ行ったんだろ…。早くしないと昼休み終わっちゃうよ」
宇崎の手には弁当が二つ。一つは自分用だとして、もう一つは一体なんなのだろう。よほどの大食いか、あるいは…。
「あ、前田先生ならさっき見ました」
部室の隅で残版のクッキーをもそもそ食べていた橘が言った。
「どこ?どこにいたの?」
「なんか校庭のほうで、次の体育の準備を手伝わされてましたよ」
体育教師の若居は教員歴15年。教師の間で幅を利かせており、新人を顎で使っている様子がよく目撃されている。気弱な前田は特に標的にされやすく、たびたび若居の使い走りをやらされているようだ。
「あんのおっさん、また前田先生を…!一度ガツンと言ってくる!」
「やめたほうがいいですよ。宇崎先生も一年目なんだし、偉い人には逆らわないほうが」
「香月さんはまだ高校生なのに、社会のクソな部分に染まっちゃダメ。立場が下だろうが、言いたいことは言う!それが私のスタンス」
「でも、いじめられちゃうかもですよ。去年もそれで一人辞めちゃったんです」
「前田先生との時間を邪魔するやつは誰であろうと敵だから。行ってくるね!」
若居に睨まれると、せっかく手にした教師という仕事を、就職して間もなく失うことになるかもしれない。そのリスクを鑑みず、宇崎は校庭へと走っていった。橘と並んで窓から校庭を見下ろすと、サッカーボールを運ばされている前田の姿が見えた。ひ弱な前田にとっては、サッカーボールはボーリング玉くらい重たく感じるはず。それでも若居の目を恐れて、ひーひー言いながらボールを運んでいる。
「前田先生、かわいそう」
「若居ってほんと嫌な奴だよ」
「生徒からの人気も低いもんね」
「ていうか口臭いし、プリント配る時指舐めるのマジでキモイ」
部長たちが残したクッキーをつまみながら、昼休みに労働を強いられる前田を憐れむ2人。間もなくして宇崎が到着し、前田からサッカーボールを奪い取った。会話内容までは聞こえないが、それを咎めている若居の顔は般若のように恐ろしい。
しかし宇崎は怯むことなく、上司に対して突っかかっていった。2人に挟まれた前田は、ただずっとオロオロしている。
「宇崎先生、すごいね」
「私だったら偉い人に歯向かうなんて無理。一個上の先輩でも怖いのに」
「でも私たちの先輩って、あれだよ?」
香月が塩井を振り返った。
「なんだ。若居の悪口に飽きたら今度の標的は私か?」
「いえいえ、なんでもないです。塩井先輩」
「香月は私のことを先輩と思ってないな?どうにも舐められている気がすると、去年からずっと感じていたんだが」
あまり人間的に尊敬できる部分はない。塩井はあくまで自分より一年早く生まれただけ。ただ、圧倒的な美貌と奇想天外な脳みそを持って。




