廃部リミット⑦
「却下だ」
「え」
ゲルニカを連れて部室に行った香月。宮田を見て、塩井が放った言葉がそれだった。
「この男の入部は認めない」
「だから、選べる立場にないって言ってるじゃないですか!今朝もそうでしたけど、なんでタイムリミット迫ってるのに、テストしたり選り好みしたりするんですか。ほんとは部活潰す気でしょ」
憧れの美少女を前にして緊張していた宮田が、冷たく突き放されたことで、ショックで固まってしまった。
「理由を聞かせてやろうか」
「まさか男子禁制だったとか?」
「いや、顔がアートすぎる」
「は?」
「どんな作品を作っても、この男の顔のほうが目立ってしょうがないじゃないか。作者は作品より目立ってはいけないんだ。宮田君だっけ?君はアートを作る側には立てないよ。どちらかというと、展示物のほうが向いてるんじゃないか」
確かに宮田を立たせておくだけで、ある種のアート作品に見えなくもない。だがそれは入部を拒否する理由にはなっていない。
香月は宮田が記入した入部届を、塩井の顔の前に突きつけた。
「とにかく、ゲルニカを入部させましょう!これで4人。廃部の危機は去った。それでいいじゃないですか」
塩井は入部届を受け取り、そして破り捨てた。
「ああっ、なにするんですか!」
「現代アート部に相応しくない人間は入れない。それが私のポリシーだ」
「いやだから、ああ、なんかもう!」
香月のストレスが限界に達し、テーブルの上に置いてあった謎の筒で塩井の頭を叩いた。
「きゃん!」
塩井が子犬のような悲鳴を上げた。
「そ、それ私が去年作ったやつ」
「なんですか、この長いトイレットペーパーの芯みたいなの。これもアート?いやもうこんなのどうでもいいんですって。結局先輩はどうしたいんですか!ゲルニカの入部を認めるの?認めないの?」
塩井がアートと言い張るプラスチック状の筒で手のひらを叩きながら、半ば脅すような口調で詰め寄る。怯えた塩井は部室から逃げ出そうとしたが、自分で床に放置していた作品に足を取られて転倒した。だから片付けろと口を酸っぱくして言ってきたのに。
「分かった。認める、認めるから!」
後輩に怒られるだけでなく、軽めの暴力を振るわれるという初めての経験に、塩井は完全に萎縮していた。
「…まったく、最近の子は恐ろしいな」
一歳しか違わないのに、まるで堕落した若者を憂う老人のような言いぐさだ。破り捨てた入部届をセロテープでくっ付け、塩井は部室の前で待機していた宮田に声をかけようとした。
「すまなかったな、宮田君。君の入部を認める。ようこそ現代アート部へ…あれ?」
「どうしたんですか」
「いないんだが」
「えっ、もしかして帰っちゃった?」
慌ててゲルニカにスマホでメッセージを送ると、すぐに返信が来た。
「先輩が怖いから、入部やめるって言ってます」
「私が?怖いのはむしろ君のほうだろ」
「いきなり顔がアートだとか、展示物のほうが向いてるとか、そんな事言う人怖いでしょ。あーあ、せっかくあと一歩だったのに。先輩のせいで廃部確定ですよ」
逃した魚は大きい。もう宮田のように快く入部を決めてくれる人は現れないだろう。
魚を逃した犯人である塩井をしかっていたところ、岩崎が部室に現れた。
「うーわ、1年に説教されてるやん。ださっ」
「うるさい見るな」
「ほんで香月はなんでそんな怒ってるん?額に青筋まで立てて。可愛い顔が台無しやで」
こういう事を平気で言うから、岩崎はずるい。
「もう、聞いてくださいよ岩崎先輩。せっかく入部してくれる人を連れてきたのに、この人が追い返しちゃったんです」
「アホやろ自分。今朝と同じ失敗してるやん」
「おぉぉぉぉぉぉ…」
反論が出来なくなると、すぐに慟哭するのをやめてほしい。
塩井が宮田を追い返した理由を聞くと、岩崎は心底あきれたといったふうに溜息をついた。
「もうこいつあかんわ。部長の座から引きずり下ろそか」
「そうしましょうか」
「すまないと思ってるよ。私が責任持って、もう一人集めてこよう」
塩井の提案に、岩崎が怪訝な顔をする。
「ほんまにできるんかいな」
「やってやるとも。君たち2人はそこで待っているといい。すぐに新入部員を連れてきてやるからな」
期待せず待っているとしよう。どうせ手ぶらで帰ってくるだろう。
「岩崎先輩、お茶でも飲んで待ってましょうか」
「せやな。あっ、お菓子あるで。食べ食べ」
岩崎の鞄から、チョコ、クッキー、スナック菓子が続々と出てきた。やはり関西人だ。




