縄張り争い⑭
試合の展開は思ったより悪い方向で進んでいった。岩崎、四条、宇崎の3人は毎打席打ってくれたが、そのほかのメンツがひどい。塩井のユニフォームが乾き始めると、深川のやる気も比例して落ちていった。橘が振ったバットは一度も球に掠らず、雄大の打った球は飛距離こそ出るものの毎回キャッチされてアウト。香月もヒットを一本打っただけ。キャプテンの塩井は一切点数に貢献していなかった。
「タイムだ、タイム。お前たち、一回集合」
状況を見かねた塩井が招集をかけた。このままでは小学生相手に敗退を喫することになり、塩井の目的である公園の使用権が認められない。勝ったところで公園を占領できるはずもないのだが、塩井はとにかく勝つことに執着している。
「なんだこの体たらくは!」
「お前が言うなや。なんも役立ってへんくせに」
「そうだよ、塩井ちゃん打率低くない?」
「先生は塩井さんのこと、もっと打てる子だと思ってた」
戦力になっている3人から総攻撃を受け、塩井は悔しそうに目をそらした。
「こうなったら手段は問わない。誰か確実に勝てる方法を考えてくれ。香月、なにかアイデアは?」
「ないですけど」
「四条」
「そんなのあったら苦労しないよー」
「岩崎」
「取られた分だけ取り返したらええねん」
塩井が頭を抱えた。
「三人寄れば文殊の知恵というじゃないか。9人寄ってもこれか」
「ほなお前がアイデア出せや」
「今考えてるところだ。私たちにしかできない方法でガキどもをぎゃふんと…」
塩井が思案顔で腕を組んでいるところへ、飲み物の買い出しに行かされていた前田が戻ってきた。戦力としてはまったく使えないので、お遣いくらいしか与える仕事がないという塩井の采配だった。
「みなさーん、飲み物買ってきましたよ。ちょっと休憩しませんか…わっ!?」
前田が派手に転んだ。変に気を利かせてか、飲みやすいようにペットボトルのふたを開けていたせいで、中の飲料が宇崎のユニフォームにかかった。
「つめたっ!」
「ご、ごめんなさい宇崎先生!ああ、私ってほんと何してもダメ…」
「そんなことないって。前田先生は偉い。存在してるだけで癒しなんだから!」
この2人、同僚として仲がいいという範囲を超えている気がする。深川が脅しに使った2人の写真というのも、おそらく生徒に知られてはいけない関係を示すものなのだろう。
「今拭きますね。タオルタオル…」
「ストップ!」
あたふたしている前田を、四条が手で制した。
「いいこと思いついちゃったかも」




