縄張り争い⑬
「よっしゃあ、見たかボケ!」
岩崎によるツーベースヒットで、高校生チームに2点目が入った。少年たちの顔が曇り始めるのが、見てて申し訳ない。
「よくやった、岩崎。だが君ならホームランも打てたと思うがな」
「空振り三振は黙っとけや!」
ベンチと2塁の間で言い合いが始まった。四条に緊縛された岩崎を救ったことで、塩井との間に友情が芽生えたかと思われたが、あの一件以降も2人の口喧嘩は絶えない。実に相性の悪い先輩たちだ。
「さて、決めてこい。香月」
「え、私ですか?」
「責任は重たいぞ。香月がミスすれば岩崎の出塁も台無しだ」
「なんでプレッシャーかけてくるんですか。やめてくださいよ」
「プレッシャーに打ち勝ってこそ、本物の野球プレイヤーになれるんだよ」
野球部ですらない現代アート部が何を言っているのか。だがバットを渡してくる塩井の目だけは、名監督のように鋭く光っていた。
今しがた空振り三振をかました塩井の手からバットを受け取り、バッターボックスに立つ。こうしてみると、投手との距離が結構遠くに感じる。よくも小学生の力で、一度も地面にバウンドせずに投げられるものだ。
投手の少年は初回から3度も打たれて落ち込みがちだったが、打席に立った香月を見ると少し安心したような表情を浮かべた。どうせ打てない、と舐められている。確かにスポーツ万能ではないが、塩井や前田ほど運動音痴でもない。絶対に打ってやる。香月は強い決意とともにバットを握った。
「スリーアウト。チェンジ」
審判も兼ねていた雄大の声が空しく響いた。
「ま、まったく球が見えなかった。あの子、絶対プロになるよ。今のうちにサインもらっとこうかな」
「ドンマイ。2点も入ったんだから気にすんなって」
塩井とまったく同じく空振り三振で終わった香月を、雄大が慰めてくれた。
問題は守備のほうで、これがメンバーほぼ全員からっきしだった。1回裏、小学生チームの攻撃で取れそうな球をエラーしまくり、結局4点の失点となった。主にエラーしていたのは橘、そして前田だ。
「…あいつら反則だよ。私が取れないの分かってて、こっちにばっかり打ってくるんだもん」
戦犯の橘が泣きそうな顔で少年たちを指さした。
「橘さん、元気出してください。私も全然取れませんでしたから」
同じく戦犯の前田が、橘の背中を優しく擦っている。
「弱者同士で傷のなめ合いをするな。橘はもっと球との距離を正確に測ること。前田先生は…、もう試合に出なくていいです」
「へぇっ⁉」
キャプテンから戦力外通告を受けて、前田はその場にへたり込んだ。




