縄張り争い⑫
1回表の第二打席。生徒会長による渾身のホームランで先制点を取得した。その一点のために塩井の尊厳が傷つけられたわけだが、休日に駆り出された迷惑を考えれば妥当な仕打ちだ。
「寒いよぉ…」
「まだ5月ですからね」
「いや、香月が水をかけたせいなんだが」
「それはどうもすいません。でもおかげで会長がホームラン打てたわけですし」
見るからに運動に不向きの細身ながら、深川が一点を入れたことに少年たちも驚いている。
「因果関係が分からないな。私が水をかぶった事と深川のホームランが結びつかない」
「それはまあ…本人に聞いてください。会長が自分の口から説明するとは思えませんけど」
ユニフォームから透ける下着に興奮してバットを振るった。その結果が先制点などと、生徒会長という立場上絶対に言えないだろう。
ゆっくりと一周してホームに帰ってきた深川は、メガネのずれを直しながら一言。
「水色ですか」
「なんの話だ」
「いえ、なんでも」
塩井の下着の色を確認してからベンチへと戻ってゆき、至って冷静な顔でスケッチを始めた。今の塩井をモデルにして、また新しい漫画を書き下ろすつもりだ。
続く三番目に打席に立ったのは、宇崎だった。同僚の前田は何の役にも立たなかったが、宇崎は運動神経もよさそうだ。大人としての威厳を示してもらいたい。
「子供相手に本気出すのは大人気ないけど、前田先生に恥をかかせた報いは受けてもらうよ!」
宇崎は一球目で2ベースヒットを放った。前田がパチパチと力ない拍手を送り、宇崎もそれにピースで応える。
「次はいよいよ四番ですね。誰が出るんですか?」
香月がそう尋ねた時には、塩井はもうベンチから消えていた。
「私に決まっているだろう」
塩井の声はバッターボックスから聞こえてきた。
「深川と宇崎先生ばかりにいい恰好はさせられない。ここはキャプテンとして、私も点を取ってきてやる」
自ら4番バッターとして打席に立った塩井は、小学生の投げる球にバットを掠らせることすら出来なかった。有言不実行。あえなく三振を取られ、目を伏せながらベンチに帰ってきた。
「先輩…」
「なんだその目は。そんな目で私を見るな」
役立たずのキャプテンのせいでツーアウト。この回で追加点を取れるかどうかは、岩崎にかかっている。




