縄張り争い⑪
続く2番打者に選ばれたのは深川だった。メガネが似合う容姿と生徒会長という肩書のせいで勉強ができるイメージは強いが、運動しているところは見たことがない。
「あいつ打てるんかいな」
「いやあ、どうでしょ。あの細腕じゃ絶対ホームランは出ないと思いますよ」
打席に立った深川は、全校集会で演説する時のような、全体を俯瞰した視線で相手チームを見ていた。どこを狙って打つべきかと、勝つための計算をしているように見えて頼もしかったのだが…。
「何をやってる!」
塩井の怒号が飛んだのは、深川は早くも二回空振ったからだ。
「やっぱりあかんやんけ。生徒会長やったらヒットくらい打たんかい!」
岩崎の理不尽なヤジがそれに追随する。
「小学生の投球がまさかこんなに早いとは。最近の子供は侮れませんね」
深川がメガネのずれを直しながら投手を睨みつけた。
「初回ゼロ点で終えるわけにはいかないぞ。こっちは高校生と大人の連合軍なんだ。一点も取れないなんて事、あってはならない」
「あ、ずるい事してる自覚はあったんですね」
男子と女子で身体能力に差はあるとはいえ、大人を連れてくるのはほとんど反則だ。塩井も若干の後ろめたさは感じていたらしい。
「先輩が応援してあげれば、会長も打てるんじゃないですか?ヤジばっかり飛ばしてないで」
「なぜ私が」
「それはほら…」
漫画のネタにしている人物から応援されれば、深川のテンションも上がること間違いなし。だが、塩井本人はそのことを知らない。まさか自分をモデルに成人漫画が描かれているなんて。だから説明のしようが無かった。
「そ、そうですよ。応援は大事です!がんばれー!」
塩井ではなく前田が声を張り上げた。生徒とまっすぐに向き合う前田にはある種の尊敬の念も抱いている香月だが、今は出番じゃないと言いたかった。塩井じゃないと意味がないのだ。
「ほら先輩も」
「嫌だね。応援がないと打てないなんて甘えだ」
なぜ変なところで頑固なのだろう。こうなったら仕方がない。少々手荒だが、深川に打たせるためだ。
隣で水を飲んでいた橘から水筒を奪い取り、中身を塩井にぶちまけた。
「ひゃっ⁉なにするんだ香月!」
「会長、これを見てください!」
水に濡れて透けた塩井の下着に、深川の視線が釘付けになった。
「ありがとう」
深川はただ一言、そう言った。そしてホームランを放った。




