縄張り争い⑨
試合の当日、香月は集合時間の10分前に公園へ到着した。集まっているのはメンバーの3分の1。9人の中で余裕をもって行動する人間は、香月以外には橘と前田、深川だけのようだった。
深川がグラウンドのぬかるみを確かめて、にやりと笑う。
「やはり予報通り、昨日は雨でしたね。土がいい感じで湿り気を帯びています。塩井さんがドロドロに汚れるのに十分なコンディション。参加した甲斐がありましたよ」
「泥で汚れた姿って…、会長的にはそれが性的に見えるんですか」
「分からないんですか、香月さん。綺麗なものほど汚れた時のギャップが素晴らしいんですよ」
「先輩って結構汚れてますけどね。この前だって生ごみばらまいてたし」
深川の着眼点は正直よくわからないが、今日の試合を漫画のネタにする気満々らしく、ベンチにはメモ用紙とペンが準備されていた。
しばらくして、岩崎、雄大、宇崎の順番でメンバーたちがやってきた。
「塩井がまだおらへんやんか」
「四条さんもまだですね」
「子供らは全員そろってんで。ごめんな君ら。せっかく時間通りに来てくれたのに、こっちに遅れてるやつがおんねん。もうちょっとだけ待ってや」
わざわざ休日に呼び出されたにも関わらず、野球少年たちは礼儀正しく岩崎に頭を下げた。負ければ公園が使えなくなる。彼らにとっても大事な試合なのだ。
塩井と四条がやってきたのは、集合時間を10分過ぎてからだった。
「いやはや、お待たせ。うむ、全員そろってるな」
「言い出しっぺが遅れてどないすんねん。子供らに示しがつかへんやろが」
「時間通りに来れるように行動していたさ。でもトラブルがあったんだ。来る途中で四条と会ったんだが、やつが持っていたロープが電柱に引っかかってしまってね。解くのに時間がかかっていたんだ」
遅刻の原因を作った四条は、特に反省をしていなさそうな表情で「ごめーん」と謝った。日常的にロープを持ち歩いている意味が分からない。
「待たせて悪かったな、ガキども。まずは逃げずにこの場に現れたことを誉めてやろう。覚悟しておくことだ。今日を境に君たちは公園の使用権を失う。そしてここに、私がストーンヘンジを設置する」
「す、ストーンヘンジ…?」
事情を知らない前田が首を傾げた。
「あの、そっち大人の人がいるんですけど」
野球少年たちのリーダー、高野が指摘したのは、宇崎と前田、新任教師2人の存在だった。
「なにか問題でも?」
「ずるくないですか?」
「小学生対高校生の試合と約束した覚えはない。悔しければそちらも大人を連れてくるといい。まあ、今からでは間に合わないがな」
汚れなき野球少年たちに、この世の理不尽を叩き込む塩井。隣で聞いていて情けなくなってきた。
「では始めようか。公園の使用権をかけた戦いを!」




