縄張り争い⑧
生徒の模範であるべき生徒会長の口から出た脅迫じみた言葉に、宇崎と前田は絶句した。
「な、なにを言ってるんですか、深川さん。身のためなんてそんな、怖いこと言わないでください」
「どうしたんだ深川さん。いつもはそんなんじゃないのに」
「いいですか、先生方。お二人が入ってくれないとチームのメンバーが足りず、試合が出来なくなってしまうんです。私にはこの試合が決行されないと困る理由があるんです」
ユニフォーム姿の塩井を見ることだろう。正確には、汗と泥にまみれた塩井を拝むことだと本人が言っていた。
「ですから先生方にはぜひ参加をお願いします」
「うーん、そう言われてもなあ。私にも予定があるし」
「予定というのは、これですか?」
深川がスマホを取り出して1枚の写真を表示させた。こちらからは見えないが、宇崎と前田の表情が凍り付くのが分かった。
「なっ、なぜそれを!?」
「どこで撮ったんですかぁ!?」
教師2人の慌てぶりからして、流出しては困る写真が深川のスマホに表示されているらしい。
「試合に参加しないなら、この写真をネットの海にバラまきます。一度流出した画像は決して消えませんよ」
一体どんな写真が。深川のスマホが見える位置まで香月が移動しようとした時、宇崎が大声で言った。
「分かった、参加する!参加するからその写真は消してくれ!」
前田もか細い声で宇崎に続く。
「私も試合出ますからぁ。どうか深川さん、お慈悲を…」
「その言葉が聞きたかったんです」
深川がスマホを仕舞ったので、写真を見ることはできなかった。新任教師2人の抱える秘密。それを脅迫材料にして、深川は最後のメンバー集めを塩井の代わりに達成した。
「ご苦労だった、深川。まさか君がそんなに乗り気だとはな。さっき言ってた、試合が決行されないと困る理由というのは何なんだ?」
「それは…塩井さんには教えられません」
まるで国家機密を握っているような言い方だが、単に塩井を性的な目で見ていると告白したくないのだろう。生徒会長としての面子もあることだ。
「そうか、まあいい。これで無事9人集まったわけだ。さあ、あの生意気なガキどもを叩き潰しにいくぞ!」
現代アート部の4人、緊縛クラブの四条、生徒会長の深川、香月の彼氏の雄大と、新任教師の宇崎と前田。総勢9名による即席の野球チームがこうして結成された。




