縄張り争い⑥
生徒会室の扉をノックしたが、返事がない。会長の深川は留守だろうか。それとも…。
「うわぁ!?」
香月が扉を開けると、深川が机の上にあった原稿用紙を慌てて隠した。やはり作業に集中していてノックが聞こえていなかっただけらしい。
「失礼しまーす」
「香月さん。入室する時はノックをしてからですね…」
「しましたって」
「あ、そうでしたか。失礼。で、本日は何の用ですか。皆さんお揃いで」
皆さん、と言った時の深川の視線は、確実に塩井にだけ向けられていた。深川からしてみれば、塩井以外の人間は有象無象。彼女の描く成人漫画のネタにならない人間は眼中にない。
「深川、君は野球をした経験はあるか?」
「野球ですか。ええ、弟の遊び相手程度には」
「よし、今週末空けておけよ。野球少年たちとの決闘があるんだ」
「…それは塩井さんも参加されるんですね?」
「もちろんだとも」
「野球、ユニフォーム、汗、泥まみれ…」
深川がなにか呟いている。空中にペンで描いているのは、塩井のユニフォーム姿だろうか。
「分かりました。引き受けましょう」
「話が早くて助かる。さすが生徒会長だ」
要件だけ伝えると、塩井はすぐに生徒会室を出ていった。これでメンバーは残り3人だ。
「いいんですか会長。そんな簡単に乗っかっちゃって。絶対変なことに巻き込まれますよ?」
「今週末と言いましたね。当日は晴れ予報ですが、その前日は雨なんです。グラウンドはぬかるんでいるはず。そこへ塩井さんがスライディングでもすれば、ユニフォームは泥まみれ。ユニフォームって結構ぴっちりしていますから、あわよくば見られるわけですよ」
「なにが」
「何がとは言いませんが、透けるかもしれません」
「だからなにが」
「これ以上は言いません」
塩井を漫画のための性的コンテンツとしか見ていない深川は、なんとも邪な理由で参加を決めたらしい。こんな人がトップを務める生徒会など、いっそ潰れてしまえばいいのに。
「ところで香月さん。最近の塩井さんのいい写真を持っていませんか」
深川の目がギラギラし始めた。
「雨の中でドレス着て踊ってる写真なら…」
「下さい!」
「え、嫌です」
「どうして」
「そういう目で見られるのはなんか気持ち悪いので」
「金ですか」
「だからお金はいりませんって。っていうか大変だったんですよ。ずぶ濡れになった先輩を家にあげて、お風呂も貸して、2時間くらいコタツであったまって行ったんですから。せっかくの休日が台無し」
深川が机をバンと叩いた。
「家にあげたんですか。そのうえお風呂まで。なんですかそのシチュエーション。まさかそのあと、何も起きないはずもありませんよね」
「起きませんよ。なんでも変な方向に考えるのやめてくれます?」
「塩井さんに伝えておいて下さい。今度お風呂に入りたければ、私の家に来てほしいと」
これ以上相手にするのは疲れるので、香月は生徒会室から逃げるように去った。本当に深川をチームに入れて良かったのだろうか。




