縄張り争い⑤
「…で、よく私のところに来られるね。よっぽど深い確執を残したと思ったけど、塩井ちゃん的には大したことないって感じ?それもそれで傷つくなー」
塩井が5人目のチームメイトに選んだのは、緊縛クラブの四条だった。四条とは先日、屋上での戦いを繰り広げたばかりだ。餌付けしたカラスの群れをけしかけて拘束された岩崎を救い出し、悪の親玉である四条に制裁を加えた。小物みたいな捨て台詞を吐いて逃げ出した四条だったが、本人としてはしばらく塩井と会うつもりはなかったはず。あれだけ無様な姿を晒したのだから、気まずさもあるだろう。だが1週間もしないうちに、塩井のほうから会いに来た。しかも野球チームに入れという。
「先日のことは水に流そう。被害を受けたのは私じゃなくて岩崎だしな」
「ウチは許してへんぞ。なんやったら今この場でぶん殴りたい気分やわ」
「まあまあ落ち着け。私たちがガキどもに野球で勝つには、運動神経のいい人間が必要だ。岩崎と四条。君たち2人がいれば心強い」
四条は人を縛ることのスピードと質を追及した結果、動体視力や筋力が上がったという歪な身体能力の持ち主だが、香月たち素人よりは使い物になるだろう。
「ふーん、野球ね。じゃあそれに協力してあげるから、もし勝ったら縛らせてよ。今度は合意の上で」
「断る」
「右に同じや」
上級生組に断られた四条は、後ろで控えていた香月と橘に目を向けた。
「なら香月ちゃんでいいや」
「いいやってなんですか。失礼ですよ。いや、縛られたくはないですけど」
「それかそっちの…、えーとなにさんだっけ?」
「た、橘です」
「橘ちゃん。ちっこくて可愛いね。肉感のあるほうが縛り甲斐があるんだけど、橘ちゃんみたいなタイプでも挑戦してみたいかも。新たな美の扉が開ける気がするよー」
ついにターゲットが現代アート部全員に向いてしまった。か弱い橘を守らなくては。トリックアートで人を騙すという点で、悪質さでは部の中でも塩井と並ぶが、橘はとにかくひ弱だ。台風が来れば真っ先に飛んでいきそうな体をしている。
「橘はダメですよ!縛ったら骨が折れて死んじゃいます!」
「んー、それは困るな。なら誰を縛ればいいの?」
「誰も縛らせないが、試合に勝ったらこの前の件は不問にしてやる。それが条件だ。どうだ、やるか?」
縛れないと聞いて心底ガッカリしている四条だったが、やがてため息をつくと、こくりと頷いた。
「はいはい、分かったよ。このまま岩崎ちゃんに恨まれたまま卒業するのも嫌だしね。縛るなら正々堂々、クリーンな関係でやりたいから」
「いい心がけだ。ようこそ、現代アート部野球チームへ」
これで残り4人。即席の野球チーム結成に一歩近づいた。




